第14話

文字数 1,793文字

       14

 テストマッチも、一対一のままで残り十分を切った。
 ペナルティーエリアの少し外、真後ろからのパスを受けたレオンがターン。間髪を入れずにシュートを撃った。
 横回転のボールがヴィライア・ゴールへと向かう。しかしキーパーはジャンプし、両手でキャッチした。
 ほぼ同時に、暁が猛ダッシュを開始。キーパーはボールを落として、前方へと蹴った。
 ライナー性のパスに、反応した選手はヴィライア8番だった。腿で止めて前を向く。
 天馬が当たるが、8番、軽くボールを持ち出してすぐさまパスした。天馬の出した右足は、掠りもしなかった。
 疾走したまま暁が受けた。速度を減ずることなく、力強いドリブルを持続する。
 (リー)が半身で寄せた。暁、右足をボールに置き後ろに転がす。すぐさま反時計回りに回転し、左足裏で前へ。鮮やかなマルセイユ・ルーレットで(リー)を抜き去った。
「アリウム!」神白は即刻、指示を飛ばす。アリウムはさっと暁に近づき、ボールを奪うべく脚を伸ばした。
 暁がボールを引いた。次の瞬間、暁の背後からふわりとボールが出現。両足で挟んで踵で跳ね上げた形だった。
(ヒールリフト! 実戦で、それもディフェンスの選手が使うかよ!)
 神白は驚きつつも駆け出した。転けた姿勢のアリウムを飛び越え、暁が迫る。暁と神白の完全なるワン・オン・ワンだった。
 暁の前に至り、神白は静止した。姿勢は腰を落とした半身。ゴール前を捨てて、至近距離でシュートコースを塞ぐ狙いだった。
 暁がまたぐ。神白はつられない。左にボールが出た。機敏に身体をずらし、神白は右足を滑らせた。
(取れる!)神白は確信した。だが暁のツータッチ目は早い。とんっと前に転がして、神白の股を抜く。
 だが神白は諦めない。ボールに行くより暁の身体を押さえ、スピードを落とさせた。
 そして神白は全力で地を蹴る。二歩目で前に倒れ込み、両手でボールを確保。すぐに自分のほうに引いて、上半身でボールを守る。
「ナイス・セーブ!」ベンチからエレナの澄んだ声が飛んだ。神白は即座に起立した。
 刹那、閃きが舞い降りた。誰もいない右前方に転がして、自らドリブルを開始。フリー状態のまま進み続ける。
 ベンチが騒然とし始めた。慌てた様で、敵7番が寄せてきた。
 神白、ちょんっとボールを晒した。7番が足を出してくるが、触れられる前に右にパス。
 バルサ3番、ワン・トラップで大きく前にやった。そのまま高速ドリブルを始める。
 敵8番が詰めてきた。7番は中を見て、ノーマークの天馬に転がした。
 右足でターンし、天馬は前を向いた。レオンがいた。敵5番と近いポジションを取っている。
 天馬はレオンにパスした。レオンはぴたりとトラップした。両腕を大きく開き、5番を寄せつけない。
 レオンの左方で、アリウムが猛烈な勢いで駆け上がっていた。天馬に劣らぬ俊足選手のオーバーラップは迫力満点だった。
 ヴィライア3番がアリウムに付いた。不安なのか、5番もちらりとそちらに首を向けた。
 しかし、隙を見逃すレオンではない。左手で5番の身体を制し、豪快に反転する。
 レオンは撃った。強烈なシュートがゴールを襲う。
 キーパー跳躍。だがボールは右手の斜め上に行った。
 カンッ! シュートはクロスバーを叩いた。すかさず5番が拾いに行く。
 だがアリウムも迫る。右足でボールに先に触れ、前へと疾走を始めた。
 キーパーが出てきた。横っ飛び姿勢で両手を伸ばす。
 アリウムは再び足を伸ばした。なんとか当てるが、直後にキーパーの右手にぶつかった。
 ボールがアリウムの後方に零れた。天馬が寄った。ゴールを一瞥すると、左足を振り抜いた。
 低速だが高弾道のシュートがゴールに向かう。暁が一人、猛然と追う。神白と競ってからずっと、暁は全力ダッシュで自陣に戻り続けていた。
 暁、滑り込んだ。ボールが左足に当たり、斜めに進路を変えた。
 だが、ぱさり。ゴールの外への掻き出しは叶わず、ボールはネットを揺らした。
 バルサのベンチが沸き立った。そちらに顔を向けた天馬は、覇気に満ちた大輪の笑顔だった。顔の横に据えた右拳を、力強く握り込んでいる。
 皆が歓喜する一方で、神白は先ほどの、蛮勇とも取れる自分のプレーを不思議な思いとともに想起していた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み