第16話

文字数 994文字

       16

 キックオフ後のボール出しは11番が受けた。すぐに大きく助走を取り、右足を振り抜く。
(キックオフシュート! 舐めるな!)
 高速シュートが飛来する。やや前に出ていた神白は、全力で退いた。
 ボールがゴールに近づく。枠に飛んでいる。神白、フルパワーで跳躍。どうにか指先にボールを捉えて、倒れ込みながらも確保する。
(なんかよくわからないけど、サッカーの試合なのは間違いない。だったら手は抜けないな。抜いたら俺が俺じゃなくなる!)
 闘志を燃やしつつ、神白は立ち上がった。すばやく周りを見渡す。左サイドバックの3番が空いている。
 神白は速めのパスを出す。止めた3番は、すぐさま6番に転がした。6番は身体のフェイントを入れて、逆サイドへと展開する。
 そこからパンパンと、バルサはリズミカルにボールを回す。一人当たりのタッチ数は少なく、徹底的に意思の統一がなされていた。十一人が一つの生き物であるかのような印象さえ、神白は覚える。
 相手に一度も触れられないまま、十一回目のパスが神白に渡る。位置はセンターサークルのわずかに自陣側。普段の神白だと取ることのないポジショニングである。
 リスクの大きさはわかっているが、神白は爽快だった。栄光のバルサのパス・サッカーの一部になれて、気分は高揚していた。
(ここだ!)守備の綻びを見つけた。神白はすかさず、インステップで強く蹴り込む。
 間隙を縫ってボールは進み、バルサ8番が駆け寄る。背後の4番をちらりと視認し、振り向かずに右足でパスをいなした。
 勢いそのままにパスは軌道が変わった。ルアレ4番は股を抜かれる。
 7番が追いついた。シュートモーションに入る。敵の5番が滑り込む。
 しかしフェイント。7番はスイングを止めて、とんっと真横に転がした。
 バルサの10番が走り寄る。完全なるフリー。力強く踏み込むと、右足でボールを捉えた。
 ライナー性のシュートが飛んだ。キーパー跳躍。だが届かない。ゴール右隅に突き刺さる。
 スタジアムが爆発した。10番は狂喜の表情で爆走する。ある時ふいに前方に跳ぶと、膝から下で地を滑る。止まった10番に味方が次々と駆け寄り、頭や身体をばしばしと叩いた。
(よし! 狙い通り!)神白はぐっと拳を握った。得点への寄与は経験が少なく、好セーブをした時とは違った充足感が神白を満たしていた。
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