第4話

文字数 2,055文字

       4

 1トップの9番がちょんと蹴り、10番が止めた。その後ろから13番が駆け上がり、すぐにそちらにパスが出る。
「侑亮! 当たれ!」神白は全力で声を飛ばした。「了解っす!」威勢良く言い放ち、天馬は13番の前に移った。
 13番は右足でボールを跨いだ。天馬の重心がわずかに揺らぐ。見切った13番、左で逆に出した。
 天馬、あっさりと抜かれた。スピードを上げる13番を必死な顔付きで追走する。
(軽すぎるだろ。攻撃は天才的だけど、守備ははっきり言って未熟だ。トップ下は守備も大事なんだ。そのポジションでもやっていきたいなら、どうにかしないといけないぞ、侑亮!)
 心の中で苦言を呈しつつ、神白は敵の攻撃に身構える。バルサの4番、(リー)が13番に寄せた。半身の姿勢を取り、次の動作に対処しようとする。
 天馬も追いついてきた。「くれ!」雄々しい大声が響き、13番は中にパスした。受けたのは声の主、暁だ。左足内側でトラップすると、ちらりと前方を確認した。
 対応する選手は、中盤の底の6番。フベニールAに上がってきたばかりだが、下のチームでは粘り強い守備で鳴らした選手である。
 暁、左足で斜めにドリブルを開始。しかし6番も従いていく。
 素早くステップを踏み、暁はキック・モーションに入った。6番は蹴らせるまいと右足を出す。
 だが暁は左足を急減速。すうっとボールを自分側に引いて、逆足の後ろを通した。
(クライフ・ターン! あいかわらずのテクニックだな!)
 神白が驚嘆していると、暁は右へと運んだ。今度こそキックし、山なりのボールがバルサ守備ラインの裏へと飛んだ。
 球足の速いボールがゴールラインを割りかける。だがヴィライア10番が滑り込み、線上で収めた。機敏に立ち上がり、中へと蹴り込む。
 バルサの左ディフェンス、アリウムの足も躱して、クロスは上がった。長身の敵9番が飛び込んでくる。
「キーパー!」と叫んで、神白は跳躍。9番がぶつかってくるが姿勢は崩さない。
 両手にボールが収まった。空中の神白は前方に目を向ける。レオンがフリーだった。
「レオン!」着地した神白は思いっきり声を張った。ボールを持った右手を引き、全力のオーバースローで放り投げる。
 レオンへのパスが敵を切り裂く。神白は強肩ゆえ、球速はとてつもなく速い。
 一度跳ねた後に、レオンは足裏で収めた。すぐにがつんと後方から6番が当たる。
 しかしレオンは堪えた。背にやった両手を巧みに使い、6番を寄せ付けない。
(レオンのボディバランスはチーム一だ。そうそうボールを失わない上に、足下も一流。一瞬でも守備が気を抜けば前を向ける)
 神白はレオンの巧みなキープを注視しつつ、思考を巡らした。
「森脇、ディレイだ! 思っくそ粘れ! 他の奴らは全員引け! 加賀だけはカウンターのために前残りだ!」
 暁から勇壮な指示が飛んだ。
 ヴィライアのメンバーは、暁の指令に従い動き始めた。動きは整然としており、暁の強いリーダーシップが感じられた。
 レオン、右足でボールをスライド。身体を反転させて前を向こうとする。
 森脇と呼ばれた6番、瞬時に反応し、再び前を塞いだ。レオンは一度蹴り真似を入れて、足裏で引いていき後退した。
「こっちっす!」天馬が喚くように声を出した。レオンと平行の位置まで退く。
 レオンはすぐさまパスした。自陣側を向いたまま止めて、天馬、同方向にドリブルを始める。
 後ろからは敵5番が寄せる。天馬はふいにくるりと反転。同時に左足の裏でボールを動かした。行く先はタッチライン側。
 5番も追う。だが天馬、ツータッチ目でライン際を転がし、超速でもって5番を置き去りにする。
 見事な個人技で均衡が崩れた。
「泉、フォロー! そいつはおそろしく速ええぞ! 間合いを充分に取れ!」
 暁が指差しながら叫び、3番が天馬に近寄った。天馬との距離は広く開けている。
 敵陣の様子を確認し、天馬は左足を振り被った。3番が慌てて詰め寄るが、構わずにキック。内巻きの高弾道のボールが敵陣へと飛んでいく。狙いは、守備の裏へと走り込む7番である。
(抜けた!)神白が小さく拳を握るが、暁、瞬時に反応。斜め後ろに数歩駆けてから、進行方向に跳んだ。ダイビング・ヘッドだ。
 ボールは暁の額に掠り、わずかに軌道が変わる。7番も追うが、キーパーのほうが早い。両手を地面の高さにまで下げると、包み込むようにキャッチした。
「キーパー、サンキュー!」「暁もナイス・ガッツ!」ヴィライアベンチからうるさいまでの声援が飛んだ。立ち上がった暁は、笑みを返しつつ小さくガッツポーズする。
(監督の見立てのとおり、個々のクオリティはうちのほうが上だ。けどヴィライアは、暁を中心によくまとまってる。ボールを支配してても点が取れないままズルズル行くと、何かで一発もらってそのまま負けかねない!)
 ボールの行方を追いながら、神白は一人、危機感を強めていた。
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