第11話

文字数 1,599文字

       11

 十分が経過した。依然〇対〇だった。補欠組は押されっぱなしだったが、神白の好セーブ連発によってどうにか失点だけは免れていた。
 補欠組の陣地の中ほどで、レオンがボールを止めた。17番がレオンに迫る。
 レオンは小さくキック・フェイントを入れた。すぐに足を戻して右、左。タン、タタンと滑らかにボールを動かし、軽快に17番を躱した。
(大柄だけど身のこなしはエレガント。ステップもテクニカルかつ独特で、捉えるのは容易じゃあないよな)
 大声で味方に指示を出しつつ、神白は考えを巡らせていた。
 レオンがちらりとこちらを見た。凄まじい速度で足を振る。一瞬の後に高速シュートが飛んできた。
 神白は機敏に反応。倒れ込み、片手でボールを弾いた。
「隙ありっす!」元気に叫んだ天馬が超速で詰めてくる。しかし神白は膝を起点にこぼれ球へと飛び込んだ。
 今度はがっちりとボールを確保し、神白は即座に立ち上がった。
(おし! パーフェクト! まだまだ点はやらねえよ!)
 心中で吠えた神白は、前方に視線を移した。ボールを持つ右手を大きく引く。
 勢いそのままに、サイドスローで右サイドへと放った。フリーの20番がワンバウンドの後にトラップする。
 すぐさま20番はターン。主力組の3番が半身で相対する。
 20番は右足の外側で持ち直し、ロングキックを放つ。3番が足を出すが届かない。
 反応したのは19番。ペナルティエリアの角でパスを収めた。縦に持ち込むが、追いついた4番が回り込む。
 19番は、左アウトでボールを遠ざけた。
 4番はゴールへの道をふさぐ。腰を落として、敵の動きに即応する構えである。
 トンっと19番は左に出した。4番が従いていく。
 19番、右のシザース(跨ぎフェイント)。逆を突かれる予感に4番の重心がわずかに傾く。
 認めた19番は、今度は大きく左で縦。一瞬遅れるが、4番もしゃにむに追走する。
 19番はシュートした。キーパーが跳んだ。しかしボールはゴールの上を行き、主力組のゴールキックとなる。
 キーパーがゴール前から蹴り出した。左サイドの主力組3番は悠々と胸で止めた。足の外側でバウンド・ボールを収める。
 3番はボールとともに右を向いた。わずかに助走を取ると、インフロントキックで蹴り出した。
 高弾道のボールが、前めにポジションを取った5番へ向かう。5番はノーバウンドで右前にボールを置いた。
「ヘイ!」左からレオンが駆け寄る。だが後ろからは補欠組17番が迫る。
 5番、レオンにパスを転がす。レオンはちらっと後ろを見ると、左アウトで軌道を変えた。
 17番はとっさに足を出すが、ボールは左を抜けた。右を通過したレオンは、再びボールを収めてドリブルを継続。
(っ! あの密集地域で敵を見ずにドリブレ・ダ・バッカ! 緻密にも程がある!)神白は驚愕する。
 16番がレオンに詰める。敵をおびき出したレオンは、すかさず斜め前にちょんっと蹴った。
(俺が出──)神白は一歩前進した。しかし躊躇し止まった。止まってしまった。
 レオンのパスには回転が掛かっていた。補欠組ゴールから離れる方向に軌道を変える。
「これはもらったっすね!」自信満々に声を張り上げて、天馬が爆速ダッシュを開始。守備陣を置き去りにした後に、ボールを確保する。
 天馬、ワンタッチ目で大きく出した。飛び出しかけて静止した神白は抜かれた。
(やられ──)神白が愕然とする一方で、天馬はシュートした。がら空きのゴールへとボールが転々と進んでいく。
 ぱさりとネットが揺れた。〇対一。主力組の先制点だった。
(くそっ! 迷って判断が遅れた! 出るなら出る! 留まるなら留まる! 半端に出たらああなるんだっての! いい加減学べ、俺!)
 神白は激しく後悔する。自分が許せない思いは、あまりにも強かった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み