第83話 火宅

文字数 9,334文字

おん べいしらまんだや そわか
おん べいしらまんだや そわか
おん べいしらまんだや そわか…

祈祷を始めてもうどれくらいの刻が経ったのか。

肚の底から頭蓋にかけて響き渡る真言も自分が発しているのか弟子の実恵と杲燐が発しているのか解らないほど加持祈祷にとりかかる僧たちの祈りは一体となり、

護摩木が爆ぜてぱちぱちと音を立てて燃える炎を前に空海、実恵、杲燐の密教僧たちの精神は、

肉体に留まったまま現世と仏の世界のあわいに居た。

いま空海たちが唱えているのは毘沙門天真言。

毘沙門天王は仏様と須弥山(しゅみせん)の北方を守護する四天王の代表であり、密教では宇宙の根本仏たる大日如来の同体とされる。

後に真言院、と呼ばれる東大寺のお堂の中で空海は鎮護国家と、平城上皇を鎮圧する立場になった田村麻呂の戦勝の祈祷を行っていた。

毘沙門天ことヴァイシュラヴァナよ、東国の関を守る田村麻呂どのの体に降りて戦神として守護つかまつり給へ。

と空海が印を結んできっかりと眼を見開いて護摩木を放った瞬間、護摩壇の炎が紅く伸びて天井に届くかと言う程燃え盛った。


「そこを退け、中納言」
「いいえ退きませぬ、上皇さま」

と輿に乗ろうとする平城上皇とその前に額ずいてとどめようとする藤原葛野麻呂の押し問答が始まってもう四半時になろうとしている。

輿の周りで待機している8人の賀輿丁(かよちょう)(輿を担ぐ下級職人)たちにとっては、お乗りになるかどうかもうどっちでもいいから早く決めて欲しい。という心境だった。

どうせ我らは上皇さまの言いなり動くだけの身分なのだから…

どけ!と強く葛野麻呂を押しのけて輿に乗ろうとする上皇の袍の袖を掴んで葛野麻呂は強引に主を引き寄せた。

「それに乗って挙兵なされば上皇さまは完全に朝敵となりまするぞ!」
無礼を承知でここで討たれても構わない。

ここでお諫めして止めないと上皇さま必ず破滅する。

仁王の形相で葛野麻呂は主を見据えた。とても五十翁とは思えない気迫であった。

だが、そんな忠臣の不退転の覚悟を知ったうえで上皇は葛野麻呂に向かって腰を屈め、ちょうど同じ目の高さになって囁いた言葉で葛野麻呂を凍てつかせた。

「お前と薬子が通じていた事はとうに解っていた」

上皇は忠心と愛妾の不貞を咎めるものではなくただ深い眼で葛野麻呂を見つめている。

「い、いつから…?」
ひりつく喉の奥に無理矢理唾を飲み下してやっと声を出した葛野麻呂に上皇は、

「薬子を傍に置くようになってすぐに、だ。春宮大夫だったお前の眼差しの先にはいつも、薬子がいた。同じ女人を愛する男同士なら解ることだ」

額から冷や汗を流して顔を強張らせる葛野麻呂を前に上皇はふ、と口元を緩め、

「だが、それがどうした?
何もかも知っていながらお前たちを今まで傍に置いて来たのは、
私を生まれて初めて皇族としてではなく人として扱ってくれたお前と、
心から私を愛してくれた薬子が…

大好きでたまらなかったからだ」

と言い切るとうなだれる葛野麻呂を振り切って輿にお乗りになり、薬子が葛野麻呂の脇をすり抜けて「わたくしも連れて行って下さいませ」と輿を見上げて上皇に懇願した。

「…これに乗ったら命の保障は無いぞ」

上皇は薬子と葛野麻呂の顔を交互に見遣り、葛野麻呂の元に身を寄せて投降すれば万が一死罪は免れるかもしれない薬子の可能性を言葉には出さないが目顔でお示しになられたのだが、

「生きるときも死ぬときも上皇さまと一緒です!」

と薬子は屹とした声でそう宣言した。平城上皇はしばしの間瞑目したがやがて輿から「おいで、薬子」と手を差し伸べ、薬子はその手を取って躍り上がるように輿に飛び乗り上皇に抱き付いた。その動作には何のためらいも無かった。

「中納言藤原葛野麻呂よ、最後の命を下す。妃の甘南美内親王(かんなびないしんのう)を始めとする幼い子らを連れて神野の元に投降するのだ。
甘南美は幼くして何も知らずに我が妻となった不憫な子だ…頼むよ」

輿の中で薬子を抱き寄せた上皇は「行け」と命令するとは、と賀輿丁たちは輿を担ぎ上げて東国の関に向けて去って行き輿が見えなくなるまでの間、葛野麻呂は微動だに出来なかった。

上皇さま。
「頼むよ」という最期のお言葉。
あなた様が最も憎んでいらっしゃる筈のお父君桓武帝に口調も音声も酷似していらしたのでこの葛野麻呂、胆が冷えましたぞ。

思えばあなた様は幼き頃より父親から見放され、東宮に閉じ込められ春宮坊たちから蔑まれて本来明朗闊達な筈のご気性が修正不可能なくらい歪められて御心を病んでしまわれた。

…どれだけ時を遡れば、私はこのような不遇に遭わずに済んだのか?

と平城京入りなされて間もなく、この離宮の庭でふと呟かれましたね。

私はその時困惑して何も答えることが出来ませんでしたが、今なら言えます。

天皇家の存続の為なら弟までも殺す冷厳を極めた権力欲の権化、桓武ことあの山部王のご長男に生まれなければ良かったのです。

せめて皇位から遠い傍系の皇族か藤原、橘などの臣下の貴族家にお生まれになっていれば己が能力を発揮できてそれなりに倖せな人生を送れていたでしょうに。

この葛野麻呂、今更ながら告白します。

思い極める性質の裏にある生真面目さと、人をあまり信じない性質の裏にある聡明さを併せ持ったあなた様が大好きでした。
そして美しくて賢い故に増長させてしまった野心ごと…薬子の全てを愛していました。

式家潰しのために利用しているだけだ。あんな色だけを使って上皇さまに侍っている女にこれっぽっちも情は無い、と何度自分に言い聞かせてきたことでしょう。

しかし今の自分は、この世で最も好きだった主と愛人の両方に、

棄てられたのだ。

暮色が濃くなり夜のとばりが降りる中で葛野麻呂は拝跪したまま顔を地面に埋めて肩を震わせて泣いた。

それは哀しみと喪失感のあまり中納言どのが自ら命を絶ってしまうのではないか?と彼の又従弟(またいとこ)である冬嗣が心配するほど激しい慟哭だった。

だが、しばらく泣き叫んでから立ち上がった葛野麻呂は今までの出来事が全て無かったかのように済ました顔で髪を整え、

「車と護衛の従者を出来るだけ揃えよ。離宮に残っていらっしゃるお子様がたを全てお連れ申し上げて帝の元に投降する」

といつも通りに的確なと指示を出したのを見て冬嗣はなんという変わり身の早さよ。と内心呆れつつも指示どおりに車と護衛の武人を手配するのであった…


昔、老境に差し掛かったある武人が人生最後の戦いを迎えようとしていた。

晩秋の冷たい雨が縦に強く降り人馬を濡らす夜、腰に太刀を佩き束帯の上に挂甲をまとった裲襠式挂甲(うちもしきけいこう)という出で立ちの田村麻呂は馬上で眼前の一点を見据えている。

ここは大和国添上郡越田村(奈良県奈良市北之庄町辺り)。
近江の関の守護を次男の広野に任せ、宇治、山崎両橋を守護していた田村麻呂は「上皇さま、輿にお乗りになってご出陣!」という斥候(偵察兵)の報告を聞いて直ちに軍を動かし、上皇の進軍を阻むためにこの地に先回りしていた。

田村麻呂の要請を受けて出陣し、長年の戦友と轡を並べる文屋綿麻呂は自分にしか解らない田村麻呂の過労と病身を気遣って「交替して陣を守りますれば」とさりげなく声を掛けたが、

「将たるもの陣地から離れて何とする」

と笑う田村麻呂に却下された。
昨年、長男の大野どのに病で先立たれいたく気落ちなさっているご様子など微塵もお見せにならないその気丈さに綿麻呂は心を打たれ、

我ながら年老いて心温くなっているていたらくよ。と己を律して顔を上げた。

程なく、濡れた松明から黒い煙を出す先導の従者の背後、雨が地面から跳ね返る飛沫の中から屋根に葱花を載せた葱華輦(そうかれん)(皇族が私的外出に載る輿)が現れ、待ち受けていた軍勢は固唾を飲んだ…

これは、
天皇であらせられたお方に楯突いていいものなのか?

という臣下の心理を逆手に取ってわざと葱華輦を見せつけ堂々と陣を通過しようという平城上皇の計算であった。

だが、上皇は田村麻呂の真価を完全に見誤っていた。

元より田村麻呂は身分や力の強弱で人を判断するような浅薄な男ではない。

だとすればどうして東国のことは東国を束ねるものに任せるべし、と桓武帝に向かって堂々と宿敵アテルイの助命嘆願ができようか。

田村麻呂の頭頂から何か熱い力が入り、それは雨で凍えていた五体の隅々にまで行き渡った。

「ここから先はたとえ上皇さまであろうと一歩も進ませませんぞ!!」

と自軍の士気の低下を肌で感じ取った田村麻呂は大音声で兵たちを正気付かせた。

綿麻呂は田村麻呂より早く剣を抜き、「構えよ!」と号令した。歩兵は矛を構え、弓兵は矢をつがえ、騎兵は剣を抜いて上皇の乗る輿に向かって各々が武器を向けた。

輿の中で平城上皇がつぁっ、と舌打ちした。
「号令をかけたのは誰ぞ!?」と外の従者に尋ねると「文屋綿麻呂さまです」と答えが返ってきたので上皇は蒼白になった。

…よりによって最も遇してきた筈の綿麻呂に剣を向けられてはもう、終わりだ。

「離宮まで引き返せ」と首が落ちるほどうなだれてお命じになった。

体から湯気を出して闘気を漲らせる田村麻呂の兵の前で賀輿丁たちが輿を半回転させて踵を返して去っていく。
「こういう殊勝なところが上皇さまの美点であらせられる」

と輿を見送る田村麻呂は切ない目で言った。


「は、確かに美点ではありますが…」

何故それを、上皇さまはご在位中の(まつりごと)に活かせなかったのであろうか。
全ては遅きに失したのだ。

と言葉には出さずに綿麻呂は全ての退路を断たれたかつての主が去った方角に向けて最後に深く頭を下げた。

上皇さまと薬子を離宮に送り届けた賀輿丁の若者たちは、濡れたそぼった直垂を木の枝に干し、焚火を起こして作った熱い粥を啜ってやっと一息ついていた。

何しろ大人二人を乗せた輿を担いで前線と離宮を往復するという重労働を終えたのだ。

首と肩中心に体が凝ってしまい、出迎えてくれた式部大輔、藤原冬嗣が労を労いふるまってくれたにごり酒で凍えた体を温めると徐々に体も心もほぐれ、
18になったばかりの一番年若い賀輿丁の青年が、

「あの…俺たちはこれからどうなるんですか?やっぱり上皇さまを担いだ罪に問われるんですか?」

と酒と若さで自分より遥かに身分も立場も上の冬嗣を前に率直な不安を吐露した。

「安心せよ、無事に上皇さまを守ってきたお前たちになんの咎も無い」と冬嗣が言い切ると8人の若者は皆一様にほっと表情を緩めた。

「だから、これから離宮の中で何があろうともお前たちの与り知るところではない」

と一応主である筈の上皇さまを完全に突き放した冬嗣の口ぶりに若者たちは押し黙った…


不思議ね、
もう終わりだ。と自覚しているのに何も怖くないなんて。

長時間輿に揺られて乗り物酔いなさった上皇さまを介抱し寝入ってしまわれた所で薬子は離宮の中で一番気に入っている庭園に面した部屋まで行き、自ら御簾を巻き上げて縁側に座り込んでから夜の闇に沈んだ庭を眺めた。

虫の音も無くなった秋の夜更けであった。
半時前に雨が上がって、庭の草木の全てが露を含んだまま静まり返っている。

思えば私の人生は、誰よりも忠勤に励みながらも桓武帝と他家の貴族たちの謀によって横死した父、種継の名誉を回復させるために奔走してきたようなものだった。

まずは娘の継子を当時の皇太子であらせられた安殿さまの妃にして皇子を産んでもらい、その子が天皇になれば外戚として式家の権威が回復する。

と目論んだが安殿さまは幼い継子に興味は持ってくれず、ならば代わりに…と姑である私が安殿さまの相手を務めた。

皇太子と姑との密通、という事実が露見する事で父の仇である桓武帝が最も傷つくからだ。

だから私は宮中から追放されようが夫の官位が下がろうが何とも思わなかった。桓武帝が死に、安殿さまが即位なさるまで血の出るような困窮の数年を耐え忍んだ。

そして目論見通りに天皇となられた安殿さまに迎え入れられ、私は女官の最高位の尚侍として宮中に返り咲いた。

たかが尚侍ふぜいが偉そうに。色を使って地位を得る女なぞ真の女官ではない…と典侍はじめ部下の女たちには陰口を叩かれたが、

それがどうしたっていうの?

私は私なりに安殿さまの親政をお助けしようとしただけ。

生きていれば必ずその地位に昇りつめていた筈の父に追太政大臣号を贈るように安殿さまに働きかけたのが専横だというのならば、

式家潰しの為に父を殺した他の藤原、

将軍の地位を得ようと代々天皇の護衛を務める大伴一族を失脚させその首を刎ねた坂上、

桓武の佞臣である地方豪族上がりの和気をはじめとする貴族どもよ。

お前たちが寄ってたかって殺した父の臣下に成り果てたのだ。せいぜい悔しがっていればいい。
お前たち男はすぐ殺すという短慮なやりかたを選ぶけれど、女の私は君臨して悔しがらせるという…

数ある復讐の方法の中では最も穏やかなやり方をしたつもりだったのに。ねえ。

女の私が君臨したことがそんなに憎いか?

貴族の男どもよ。

特に、あの桓武帝に酷似した式家の又従兄弟(またいとこ)、今上帝神野よ。

お前もまた父親のように強引な親政を執って民を苦しめるんでしょうね…

この庭に朝陽が照り映えて露が光り輝く光景が人生の中で最も美しい景色だ、と上皇さまと並んで眺めていたものだけれど、どうやらそれは叶いそうにもない。

薬子は立ち上がって部屋の壁から出た紐を引っ張ると人ひとり通れるくらいに切り取られた壁がくるりと半回転し、隠し部屋の棚の上にあるたなごころにすっぽり収まる唐三彩の薬壺を手に取り、蓋を取って附子の丸薬が壺の半分の量残っているのを確認すると、

致死量として大人二人分死ねるわね。待っててください上皇さま、今楽にして差し上げます…と隠し部屋から出て上皇の寝所に向かおうとするところを…

何とも(にえ)なる二胡の音色で立ち止まってふと庭園の中央にいる人影に見入った。

そこには床几に座り、子供の頃に聞いた懐かしい唐楽を弾く目に覆いを被せた老婆がいる。

「おまえは、天河の踊り巫女集団の長老…」

彼女がどうしてここに?と聞こうとする薬子の心を読んで次の行動を遮るかのように

「違うね」と老婆は見た目より随分若々しい声で答え、自ら目の覆いを取るとその下から真一文字に両目を斬りつけられた古い刀傷が現れた。

「我は北家、藤原喜嬢(ふじわらのきじょう)

と老婆が本名を明かした。藤原喜嬢、と言えばもう30年以上も前に奈良の寺社にかりそめの寄進をした巨額脱税の罪で摘発された女。その後行方知れず。

ぐらいしか情報を思い出せない薬子であった。

「そこの貴婦人、何やら毒のにおいがぷんぷんするけれど、まさか上皇さまに大それたことをなさるおつもりかい?」

心の内をずばり言い当てられた薬子は老婆の言葉に縛られ動けなくなった。

「大陸でもこの倭国でも貴人はみんなそう。自分の政の失敗を全部民と次代に押しつけてさ、他国に逃げるか自殺するしかないんだよね。そうやって残された民には生き地獄だけが残る…それが歴史ってもんさ」

「大陸、って貴女はそこの生まれなの?」

薬子の質問に喜嬢はやれやれ、と予測はしていたもののずいぶんがっかりしたように首を振った。

「あたしはもう、罪人として死んだことにされているんだねえ…ねえ、そこの貴婦人。何もかも失って大それたことをする前にひとつ、藤原家の貴族から山の民に成り果てたこの媼の話でも聞いとくれよ」

薬子は老婆の背後にある影、というか自分の何倍も密度の濃い生き方をしてきた人間の、

人生の後ろ姿。

というものを腰を屈めて座る喜嬢に見たのだ。

「いいわ、どうせ夜明け前に死ぬつもりだったんだから最後に聞いてあげる」

女同士、そうこなくっちゃねえ!と喜嬢は年齢を感じさせぬ艶っぽい声で笑った。


あたしの父はかつての遣唐副使で北家、藤原清河(ふじわらのきよかわ)。母は父にあてがわれた接待役の楽妓で、唐の長安城であたしは生まれた。

父の清河は副使の任を終えてさっさと帰国する筈だったのに、途中で嵐に遭ったり安禄山が反乱を起こして時の玄宗皇帝に出国を禁じられてねえ…

あたしが25の時、父は故国に帰れず無念のまま死んじまった。

だけど、そのすぐ後に父を迎えに来た倭国の遣唐使たちがね、

貴女はまぎれもなく藤原北家の姫。亡くなった清河さまの代わりに必ずや日の本にお連れ申し上げます。と言って帰りの第一船に乗せてくれた。

それはそれはひどい嵐の中、船は真ん中から真っ二つに割れちまってあたしは副使の大伴継人どのと共に船の舳先にしがみついてやっと肥前の果てに漂着して帰国できたのさ。

都に入って光仁帝に謁見したあたしは正式に北家の姫として認知され、父清河の財を継いで桃源郷もかくや、と言われる程の豪奢な生活を送った。

倭人と唐人との間に生まれたあたしは倭国の姫様、と呼ばれ賓客の子として従者まで付けられて育った。いつか父の故国に帰って恥ずかしくないよう両親の国の言葉、漢詩や書、史学や儒教、道教、仏教などの学問と全ての楽器が弾ける位の舞楽等々、

ここの国の貴族以上の教養を身に付けさせられていた。

貴族の男や各寺の高僧たちはやれうまい文書の作り方を教えてください、唐の最新の書体を教えてください、だのなんだかんだ理由を付けてはあたしの邸に通って毎夜のように唐楽の宴を愉しんだものさ…

しかし、欲を貪り過ぎたのかもしれないね。

ある日あたしの邸に御用改めの役人が押し入って来た。父の代から懇意にしてきた寺社への過剰な寄進を朝廷に怪しまれて脱税の罪が露見した。

寺社を金蔵代わりにして税を逃れるなんて貴族なら誰でもやっていたことだ。長安城では全て賄賂で物事が動いていたからあたしはそれが重罪なんてこれっぽっちも思っちゃいなかった。

捕まってからの詮議はそりゃ辛かったよ。
あたしは最後までだんまりしてたけど他の貴族の連中が全部喜嬢に入れ知恵されたのだ。とあたし一人に罪をおっ被せちまった。

男たちの女への裏切りがどんなに酷いものかこの時に身を持って思い知らされた。

主犯格にされたあたしは家督を剥奪され、その場に居た男たち十何人かに犯された後、両目を刀で切り裂かれて生きたまま山中に棄てられた。

冬の事だったのでそのまま全身の血が引いて凍え死ぬところだったのを修験者たちに助けられ、あたしの素性を知った先代の修験者の長に匿われてその息子、タツミさまの母親代わりをしている内に修験者の長老として扱われるようになった。

これが、誰にも救われず火宅の中で焼かれた子、喜嬢の物語だ…

火宅?と聞き返す薬子に「法華経の三車火宅ぐらい知ってるだろ?あんたはいままさに火宅の中に居る。可哀想に、とは思うけれどあんたと上皇さまには経典のように救いの車は来ない」

法華経の七喩の一つ、三車火宅とは

人々が、実際はこの世が苦しみの世界でしかないのにそれを悟らないで享楽に耽って生きているさまを、焼けつつある家屋の中で子供たちが遊びに喜び戯れている様子に例えた言葉である。

経典では長者である三人の子供たちの父が子がそれぞれ望む羊車、鹿車、牛車、(それぞれ声聞、縁覚、菩薩に例えられる)の三乗の教えによって所詮火宅である現世から仏が救い出してくれるという教えであるが、

「なぜ自分たちがこうなったのかよくよく考えてみるんだね、ああそうそう、この目の傷はねえ…
あんたの父の種継に斬りつけられたものなんだよ」

と喜嬢が告白した時、薬子はひいっ!と声を上げて薬壺を握り締めたままその場で脱力して座り込んでしまった。そういえば、

そういえばそういえば、言われた通りに出来なかった時の父は人が変わったように過剰に怒り、時には棒で手を打つ人ではなかったか?女の私には傷を付けなかったけれど、兄仲成は人目に触れない衣服の下は痣だらけになるほど殴られて、それで家出して放蕩息子になってしまったのではなかったか?

薬子の中で謹厳実直だった父種継の虚像にひびが入って壊れ、本当は暴力的で支配的だった父の記憶ばかりが次々に蘇って来て薬子の胸の奥から黒い火焔となって彼女の意識を支配した。

そうだ、私はあの夜また娘を放って別の宮女の元へ行こうとなさる安殿さまに向かってわざと胸元を開けて見せて、

「造営大夫藤原種継を暗殺なさったのは…あなたの父である帝なんですよ、春宮さま」

と安殿さまの耳元で囁いたことが全ての始まりだったのだ。

救いが来ないのは当然。だって、火を点けたのは私なのだから。

理性が崩壊してふわふわとした足取りで上皇の寝所へ向かう薬子に背を向けて二胡を背負って杖を突いて離宮から出た喜嬢は出迎えてくれた修験者の女たちと自分を離宮に入れてくれた藤原冬嗣に向かって、

「もうこれで思い残すことはないよ」

と実にさっぱりとした口調で言い切り決して後ろを振り向かなかった。


その頃、平城上皇は心から薬子の助けを求めていた。

「…いかがですか?前の妃が愛用していた胸紐でじわじわと首を絞められる心地は」

と形の良い眉を嗜虐の喜びでいっぱいに広げて上皇の首を締めあげるのは、早逝した妃、帯子(たらしこ)の兄で上皇が臣下の中で最も重用した筈の…

藤原緒嗣であった。

意識が薄らぐ中、いつか緒嗣にこうされる時が来るのを自分は頭の隅で解っていた気がする。

あれは神野に譲位する事を決めたきっかけとなった心の臓の発作で意識を失う直前、葛野麻呂、仲成、緒嗣の三人の側近の中で唯一口元をひきつらせて笑っていたのは、緒嗣だったのだから。

「骸となって返って来た妹の躰のあちこちに出来ていた痣で帯子があなたにどんなひどい目に遭わされていたかこの緒嗣、愚かにもその時やっと気づきましたぞ…こんなことならお前を後宮に入れるのでは無かった。いまお前の仇を取るから許してくれ!帯子っ…」

とどめとばかりに夫の暴力に耐えかね自ら首を括って死んだ帯子に向かって緒嗣は泣きながら妹に詫びた。

これでこのまま緒嗣に絞め殺されても仕方のないことだ、春宮坊を刺し殺した罪、
帯子を自殺に追いやった罪、嫉妬で伊予を殺した罪、乙叡を憤死させた罪、中臣王、鷹野、神野暗殺を命じて死地に追いやった土蜘蛛たち、

我は、何度地獄に落とされても足りない罪業の身。ひとおもいに、や、れ。

と抗うことを全て止めて目を閉じて脱力した途端、呼吸が楽になったので上皇は我が身が本当に死んだ。と錯覚した。

躰が空気を求めてぜえぜえ。と何度も大きく息を付いた自分の目の前で、緒嗣が薬子に武器を突き付けられて後ずさりしている。

「女がなぜ(かんざし)をいつも付けているか、今から解らせてやりましょうか?」
と左手で緒嗣の襟元を掴んで右手に持った簪の先をぐい、と眼球に触れる直前で止めて薬子は薄く笑っている。

「…っ、やめろ薬子!」
と上皇が止めなかったら薬子はそのまま緒嗣の目を突き刺していただろう。明らかに常軌を逸した薬子の顔つきに緒嗣は心底怯え、這いながら部屋を出て行った。

やっぱり最後まで私の傍にいてくれたのはお前だ。

「おいで、薬子」
といつものように上皇が優しい声で薬子を呼んだが薬子は視線を泳がせて上皇とちょうど目が合った時に若い娘のように微笑んで、

「火を点けたのは私。だから今から消さなくては」

と言うと懐から取り出した壺の蓋を開けて中の丸薬を全て口に含むと角盥(つのだらい)を持ち上げて口に付け、中の水で毒薬を全て飲み下した。









































































































































































































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登場人物紹介

空海、本名は佐伯真魚。香川県善通寺市出身の裕福な豪族のせがれ。学業優秀で長岡京の大学寮に入るが、そこで遭った悲劇が彼を仏門に向かわせる。

嵯峨天皇(神野親王)桓武天皇の第二皇子。

問題だらけの平安京に真の平安をもたらす名君。空海とは生涯の友になる。欠点、浮気性でパリピ。

橘嘉智子

嵯峨天皇に最も愛され、橘氏出身の唯一の皇后となる。仏教への傾倒は人生から逃げる術。

私は和気清麻呂。「これから起こる悪い事全部怨霊のせいにしちゃいましょう」と御霊信仰の悪知恵吹き込みました。

本音?桓武帝が起こした人災だろーが。

藤原薬子です。後に悪女呼ばわりされる私も言い分いっぱいあるんですのよー

嘉智子さまお付きの女童、明鏡です。薬子登場でなんだか不穏な予感…

空海に山岳修行教えた勤操ですぅ〜。時々奈良仏教の中間管理職としてぼやきます。桓武帝と戒明じいさんとの因縁ってなんやろな?


役行者六代子孫にして作中最もヤバいおっさんタツミ登場。わし空海のエグい修行生活のはじまりです。

新キャラ藤原葛野麻呂、空海を唐に連れて行く貴族です。私の顔は東寺の帝釈天像がモデルです。イケメンですよー。

兄貴、自分の息子の誕生祝いで不倫ばれてんじゃねーよ…って親父に対して正論で返してるし!義理の叔父、田村麻呂初登場。

by嵯峨帝

ふっふっふ。俺様は修験者の頭タツミ。真魚よ、よくぞ試練を乗り越えたな…っていつまでも妻の手握ってんじゃねえ!

若き日の坂上田村麻呂も絡む平安ミステリー、藤原種継暗殺事件の真相です。


最新話まで話を読んできた登場人物全員の心の声


「そりゃ祟られるわ!!」

実在した前の遣唐使僧、戒明です。史実上の真魚との接点は不明です。唐から偽経を持ち帰ったとして失脚してた私の名誉回復をしてくれたのは空海だから最初に出会った師として登場。

荒行の末に悟ったもの。仏性、すなわち人の心なり。善行も悪行もそれを行う人の心次第。

やっぱりわたくし、親王さまを好きになっていたのね。(浮気者だけれど)

多治比高子です。嵯峨帝側室として寵愛された理由はインテリだった設定。

あれ?「あの四重奏ドラマ」のエンディングシーンみたいなことしてない?

三行指帰現代語訳コント風、はじまりまじまり〜

何これ⁉︎空海の書いた話おもしれーじゃん!と吠えて宮女に叱られる神野。三教指帰は日本初の小説と呼ばれる。

空海、実家に帰る。真魚が一番可愛いお母さん。激烈お兄ちゃん、実家あるあるな心配するお父さん。

空海の実家をそのまま父親の名前にしたのはオヤジ、ありがとう…グスッ(泣)の気持ちやったんや。

後の法相宗のトップにして東日本に仏教を伝える男、徳一の本心。

高雄山寺プロレス回。奈良仏教の裏番長、実忠しれっと初登場。

やっと最澄登場。美坊主泰範のせいで既に不穏な比叡山寺。

ある意味最強キャラ、朝原内親王登場。

飛べない小鳥、から明鏡の出生の秘密編へ。

尚侍明信の罪は亡国の姫、明信の若き日の過ち。

「陽の下の露」冬嗣の長男、藤原長良誕生。ちなみに薬子と葛野麻呂の不倫関係は史実です。

「風が吹く」遣唐使に選ばれなかった空海に起こったありえへん奇跡。それにしても徳一口悪ぃな。

桓武帝が仏教勢力を叩いた理由は脱税摘発のため。しかし宗教法人を使った脱税って1200年経った今でもやってますなあ。

「受戒」どーもどーも、三論宗のアイドルにして空海の頭を剃った勤操ですぅー…ってじいさんどないしたー⁉︎

最初の師戒明との別れ。わし、行ってきます。

「船乗り星」朝廷も一目置く宗像氏の濃いマダム登場。

どうもー、空海を唐に送り最澄を唐から連れ帰ってながらも後世にほとんど知られていない葛野麻呂。ここでは準主役です。

徳政論争回。現実的にこれ以上の東国進出は無理だった。徳川家康の次に鷹狩り好きな歴史上の人物として有名な桓武天皇の最後の鷹狩り。

仙境天台山、思えばこのひと時が最澄の一番の幸福だったかもしれない。

「崩御と即位」皇帝陛下の崩御と新皇帝の即位に立ち会っちゃった俺って持ってる〜。からの、カネが無いから2年で逃げ帰れ命令。

「聖俗同船」帰国できなかった遣唐使もいるんですよ…葛野麻呂の最澄へのツンデレっぷりをお楽しみ下さい。

「密の罠」帰国した途端最澄に降り掛かる悪意。

平安京を開いた帝の最期。これから不穏な平城朝が始まるー

秀才、橘逸勢にトリプルの悲劇。留学生たちの寂しさを癒す楽の音。

恵果と戒明との邂逅から三十年。やっと後継者に出会えた恵果。

まるで唐密教の滅びを予測していたかのような恵果の発言。実際にそうなります。

「遍照金剛」かくして遍照金剛空海誕生。で、何で俺様がナレーション?

「柳枝の別れ」長安出立前夜に明かされる霊仙の正体。次回から日ノ本、平城朝編。

「平城朝」最後の薬子の表情は読者さんのご想像にお任せします。

「春宮神野」

宮中も 女子回なければ やってらんない

by明鏡 字余り

「天皇の侍医」官僚として、医師として苦労する弘世の人生が始まる。

「謀」とうとう粛清に向けて動きだした薬子。朝原内親王、神野に迫る毒殺の危機。

「比叡山夜話」最澄に迫る危機。平城帝の悪意。

「翡翠の数珠」空海のせいでまた逸勢がヒドい目に遭うお話。

「阿保の本音」父平城帝への不信感が募る阿保親王。後に彼と妻の伊都内親王から生まれたのが在原業平。

前半の薬子の兄、仲成が起こした暴行事件。これ史実です。後半の勤操の述懐は創作ですが。

「咎人空海」空海、やっと帰国。あの三姉妹再び登場。

「海辺のふたり」空海だけを都に帰さなかった藤原縄主の思惑とは。この時代、芋粥は極上スイーツ扱いでした。

「白雪」兄帝の危険性を思い出す神野。

「神泉苑行幸」策謀に満ちた宮中。筑紫で布教を始める空海に届いた悲報…

「藤原家の毒薬」いつの世も女の仕返しって陰湿なのよねえ。

「譲位」嵯峨天皇が即位した夜に明かされる伊予親王の死の真相。冬嗣の胸に去来するのは怒りか、諦めか。

「実ちて帰る」主人公2人がやっと初対面。次回から第3章「薬子」のはじまり。

わたくし藤原薬子が主役の章、「薬子」、開始ですわよ。空海阿闍梨、神野の坊やとの初謁見でいきなりド不敬発言。

「橘の系譜」女性天皇が女性の部下に姓を与えた女性が始祖の橘家。

明鏡、家族と再会し、そして母になる。

「背徳」性描写あり。そして、薬子は悪女になった。

「真言の灯」最澄さまの千利休感と人手不足の密教。ある事で滅多になくブチ切れる空海。

「宮女明鏡」嵯峨後宮ベビーラッシュ。身籠った明鏡がこれまでの人生を振り返る。

「阿修羅」、怒らせるとシャレにならないレベルで怖い空海のダークサイド。

「東国の勇者」アテルイ回前編。13000vs500で朝廷軍にに勝利した巢伏の戦いと田村麻呂との対話。

「王の器」アテルイと田村麻呂の物語、後編。胆沢制圧戦後のアテルイ、田村麻呂、桓武帝。

真の王の器は誰にある?

どぅもー、宮中のイケオジ葛野麻呂です。「負の遺産」、宮女同士のマウントバトルが怖ぇわ…

「征夷大将軍殿の憂鬱」田村麻呂、愛妻とのフルムーン旅→ヒリヒリするような駆け引き。

「小鳥立つ」明鏡、13年ぶりに父との対面で思い切った決断を告げる。そして運命の子は誕生した。

「火の継承」

この時代の年明けのお祭り、修二会。ググった結果検索トップがさだまさしの「修二会」だったので公式の自分がまさしに敗けて悔しい実忠。

「智泉の祈り」

嘉智子さまへのマタハラ案件、「皇子を産め」とのたまう橘家の兄君たちにブチギレる空海阿闍梨。

「豪奢なる遁甲」嵯峨天皇vs平城上皇最後の争いが万葉サーカスの歓声の中始まる。


この回から三人目の主人公、ソハヤ登場。

「私刑」

池波か!とツッコミ上等な回。法具を本来の目的(明王の武器)で使う空海。

「なるほど、これがお役所仕事か」by嵯峨天皇

「隘路」、暗殺者集団土蜘蛛vsタツミ率いる修験者たち。薬子の変クライマックス前編。

「火宅」一万字越えの大作です。嵯峨天皇vs平城上皇最後の戦い後編。


藤原薬子と語らう老婆の正体は…

「徒花散る」失脚がそのまま死に繋がる全然平安で無かった平安初期の、最後の政変。


勝ってもあまり嬉しくない戦いでしたね…


by田村麻呂

第3章「薬子」終わり。後ろ暗い取引をしてもカッコいい俺様であーる。


by修験者タツミ

第54代仁明天皇こと正良誕生でおめでたい事からはじまる弘仁元年。

「弘仁おじさん」と呼ばないで。

by藤原冬嗣

明けましておめでとうございます。嵯峨天皇の叔母にして宮中屈指の美魔女、酒人内親王です。ここぞとばかりに気合い入った命婦たちのファッションと空海vs朝原の新春disり合い回で御座います…

若い頃の実忠さまはやさぐれていたなあ。

この世でやるべきこともやったし…じゃあね!

by和気広世

嵯峨天皇の兄、良岑安世の恋人の真名井でございます。「九条にて」はさあ、これから庶民と渡来人たちが活躍する平安アンダーグラウンドな物語の幕開け。

空海in伊勢神宮。朝原内親王より託されたとんでもない密命。

エミシ最後の戦士、ソハヤの人生のはじまり。

前半、終了。

険しい高野の山道を抜けるとそこは…異文化レベルの集落だった。

「丹生一族」パツキン彫金師、ムラートです。今回は丹生一族と秦一族と高野山のお話。



奈良の大仏建立時の人に言えない過去。老いた僧ほど暗い秘密を抱えているものなのですよ。

by実忠

「集光」実は、この話で作者は話を終わらせるつもりだったのですが、取材で高野参りをし、そこの宿坊でご住職の説法を聞いた時に「物語のラストシーン」が頭に浮かびあと50話位書く事に。

「田口三千媛」今では虐待と言われる育てられ方をされたと思います。訳を聞かされて納得しても、無理に許さなくてもいいのよ。

「弘仁格式」100年ぶりの法改正にとりかかる嵯峨帝。謎の美僧、泰範の師に対する本音。

平城上皇が会いたかった東大寺の重鎮、実忠の昔語り。前編。光明皇后に仕えた日々。

「光の時代、後」実忠の過去の話。

後半は道鏡事件の真相。

遊女真名井の人生の転機。家族との再会と共に恋人との別れを覚悟する。

「軛」

丹生のシリン姫の花占い。「来る、来ない。来る、来ない…来たあー!」

「灌頂」

死んで生まれ変わりたい気持ちで空海に会いに行った泰範。

最澄はんの「泰範、行かないでくれ」

の熱烈な文が歴史的資料として残っておます。

by空海


ぐすっ、ぐすっ…生きながら生まれ変わる事って出来るんやな…


by泰範

「信源氏」日本史最初の源氏、源信です。あのね、四さいの時にお家(宮中)から出されて明鏡お母様と離されてしまったの。


信源氏物語のはじまりはじまり〜。

高野の麓、天野の里に帰ってきたムラートです。妹の結婚式がゾロアスター教通りの儀式だと⁉️


天野わっしょい物語をお楽しみに。

嵯峨帝と正妻高津内親王との離婚の真相に迫る「高津退場」後宮サスペンス回。

橘嘉智子、立后のお話。

「わたくし、覚悟を決めました」

「常の白珠」

延暦十五年四月(796年5月)、日の本初の公然セクハラ&パワハラの記録でございます。

by明信

あの時は恥ずかしい思いさせてごめんよ…まだ怒ってる?

ねえ明信、こっち向いて(焦)

by桓武帝

お二人とも、犬も喰わない痴話喧嘩を板上でやらないで下さいまし。

by葛野麻呂

「わし、とうとう最澄はんと絶交する覚悟決めました」

空海を本気でブチギレさせた最澄の言動。


そして、高野山開基に向けて動き始める弟子たち。

「高野」

私ムラート、生まれも育ちも高野山でございます。このお山の自然の洗礼に遭う実叡と泰範。

高野を舐めちゃあいけねえよ。


なぜか寅さん口調。

「時鳥」

小野篁初登場回。そして、現世での役目を果たした巫女との別れ。

「落花宴」

民を食わせるために働いた藤原、葛野麻呂の最期。日ノ本初の茶事と花見の宴の記録。



「拠り処」

天皇皇后だってもふもふふくふくで癒されたい。徳一、東国に進出宣言。

「橘秀才」

「弘法も筆の誤り、って肝心な時に大ポカをやらかすって事なんだね」

古今随一の芸術家となった逸勢、空海にツッコミを入れる。

「シリン都に行く」

はーい、私は高野山の麓天野の里に住む主婦シリン。夫に下された辞令で子供たち連れて平安京へお引越しですって⁉️ドギマギしちゃう!

…って魔法少女みたいなあらすじ紹介でいいのかしら?

「篁」

ちーっす、小野篁でーす。僕の風評「なんだかすげえ奴」みたいに言われてるけど、嵯峨帝に出会った頃は脳筋の野生児でしたよ。

「一隅を照らす」

最澄、最期のことば。戒壇認可を遅らせた嵯峨帝の真意。


そして、たそがれ空海。



「進士篁」

ちーっす!篁っす!それでは一句。


竹の子(篁)が ドラゴン桜(三教指帰)で サクラサク


物語の主人公空海阿闍梨から僕に交代っす!

白秋の章、「嵯峨野」のはじまり。淳和帝即位。遡って嵯峨帝による黄櫨染御袍プロデュース秘話。

「正子と正良」

嵯峨上皇と嘉智子お母様の息子、正良(後の仁明帝)です。十四で結婚したお嫁さんが可愛過ぎてキュートなハートにズキンドキン!です。

「祈雨(きう)」

元服した源信信です。空海阿闍梨による伝説の雨降らしの祈祷の裏に蠢く大人たちの陰謀に、

うわあああ…

皆さんお久しぶり。田村麻呂です。平安初期の貴族たちは麻呂麻呂っなくて武士武士ってたんですよ。


ごきげんよう、小野篁です。

(官吏になったのでパシリ口調はやめました)

今回は私のルーツとソハヤ、シルベに隠された秘密が明かされる回です。

「在るがまま」

平城上皇の第三王子、高岳親王です。今回は父の最期の想いと私の出家の物語。


◯ウケンシルバーのモデルになった私の人生の出発でしたねえ。

「哀しい哉」

このエピソード書くために作者、高野山にお参りに行き智泉の御廟(お墓)に手を合わせました。

「天長二年の旅立ち」

久しぶりの金髪仏師ムラートです。東寺の立体曼荼羅完成秘話。あの時の空海さんは某劇作家か!って位ダメ出しして来て参りましたよ…


そしてラスト主要人物、在原業平初登場。

「夫人たちの夏」嵯峨帝の側室、藤原緒夏です。後宮で生きる憂鬱と高子さまとの友情の回。


「頭の冬嗣」

今年の◯河はやり過ぎちまった私の愚孫どものいざこざですが一人ちゃんと遺言を守った奴がいたようです。

「心の中の明王」

篁と徳一の出会い。東国にて。

空海と最澄を支援した破天荒僧侶、勤操の最期。さよならだけが人生や。

喫茶去(きっさこ)は禅語で「ま、茶でも一服」の意味。人生最後の対面を惜しむ主人公二人。

「光明」全ての務めを終えた空海の眠り。次回から次世代編へ。

「流人篁」百人一首で有名な「わたの原」から始まる篁の反骨最骨頂行動と流人生活。


ちゃっかり現地妻作ってました。

「落日」

葛野麻呂の息子で遣唐大使、藤原常嗣サイドの最後の遣唐使節の行程。


支援者の張宝高は新羅の海将で外交官で大商人。

この回のゲストは唐代の大文人。

「円仁の旅・使命」

どうも、遣唐使団からバックれた不法滞在僧侶の円仁(最澄の弟子)です。私の9年以上に及ぶ旅はいきなりホラーな展開から始まります。

実質、最後の遣唐使である円仁の旅の後編。空海より託された三つの遺言は果たしたものの武宗による仏教弾圧を受ける苦難の復路。オカルトな場面あり。

「胡蝶」

「胡蝶の夢」になぞらえた常嗣の帰国後の辛い立場と責任を感じる篁。二人とも苦しんだんだ。

「観月」

嵯峨上皇が家族たちにそして遥か未来の子孫に向けて述べた言葉。

人生最後の観月の宴。



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