第64話 バールのようなもの
文字数 1,795文字
息が詰まるような蒸し暑い夏の日。
その日に限って、両親は居なかった。
いつもの公園に向かう。
兄は母の心配をして泣きじゃくり、公園への誘いを断っていた。
そこで、事件が起きた。
いじめっ子に地べたに正座させられて、泣いている男の子を助けた記憶があります。
その時、私はちょうど旅行に出ていたんです。
両親は何やら怪しいシンポジウムに参加しており、私は暇だから近くの公園に遊びに来ていて。
うーん。
そうなのかな。
男の子が三人。
よってたかって、正座させられた男の子に罵声を浴びせていました。
「あのおっかねえ母ちゃんが居ないから、こっちのもんだ」
「お前、気取っていてムカつくんや」
などなど。
私はもう、無我夢中で彼らを怒鳴りつけた記憶があります。
その頃は無鉄砲だったので、怖いもの知らずでした。
泣いている男の子。
彼女は、腰に手を当てて彼を叱責する。
強気でいかないと舐められるよ!
うちのお母さんなんか、この間お店の冷やかしを箒で追っ払ってた。
そのくらいしないとバカにされるだけで商売にならないって言ってた。
俺には無理だよ。
箒を持ち出すなんて……。
箒でなくても、バールのようなものでもいいよ!
もっと無理だよ。
バールなんて持ち出したら、相手が死んじゃうよ。
すっかり日が暮れた窓の外を見ながら、はなびはぼんやりと今日の事を思い返した。
達也のこと。
そして、いつかの思い出のこと。
ずっと心に引っ掛かっていた昔の思い出を口にする日がくるなんて、夢にも思わなかった。
少しずつ、夜は更けていった。