第70話 辿りたい
文字数 1,984文字
心春の態度が変わった。
晶の姿を見るなり、何故か慄いて逃げ帰ってしまったこと。
それから猥談が送られる事は激減した。
パソコンの画面に向かい、業務に取り掛かる。
周囲が性の話題を持ち出す度に、他者より遅れているという自覚はあった。
そしてそれはコンプレックスとなり、晶との交際を決める際に、ほんの僅かに背中を後押ししたという下心も否めなかった。
しかし、処女であることを前面に押し出して自分をアピールしたつもりは毛頭ない。
交際中に、そういった考え方も脳をよぎったが、流石にはしたないとして否定した。
更に言うと、晶はそんな事で釣られるような人間ではないだろう。
気持ちを切り替え、はなびはのんびりと過ごす事にした。
家の中の事をしながら、そっと家のインテリアを確認する。
クローゼットの中を開けて、晶の服を一つ一つ丁寧に手に取った。
ハンガーにかかった服を手に取り、衣服の観察を始めた。
食べこぼしなどの汚れの跡は見られず、洗いざらしの布の感触が指先から伝わる。
匂い、衣服の癖、カタチ。
明々後日には晶が帰ってくる。
ずっと自宅にこもって一人で過ごす事も多いが、一週間近くも会えないのはやはり辛い。
衣服からこれまで生きた晶の痕跡を辿り、そっと指で撫ぜた。
やがて、晶が帰宅する。
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はなびは静かに天井を見上げ、小さく溜息を吐いた。