第59話 静かなる苛烈
文字数 1,654文字
次の日、テーブルの上にノートパソコンが一つ、置いてあった。
いつになく真剣な表情の晶を見て、はなびは口を噤んだ。
まさか、そこまで義を立てるつもりなのだろうか。
しかし本当にこれ以上の追求は不毛だとして、はなびは頷いた。
首を傾げる晶を横目に、はなびは出勤準備を始めた。
パソコンは翌日に会社に持って行くことにし、ゆるゆると家を出た。
出社すると、ゆきこが興奮気味に話しかけてきた。
騒ぎ立てるゆきこを心配そうに見つめつつ、はなびは業務に集中することにした。
どう見ても怪しいが、水を差すような事を言うとゆきこが激昂して手が付けられなくなることも、同時に理解していた。
手を動かしながら、隙間隙間に晶との日々を思い返す。
出会って二ヶ月が経とうとしているが、それで婚姻届に記名をしている状態である。
電撃結婚にして、スピード婚。
喧嘩らしい喧嘩はせずに来ているものの、代わりに自分達が苛烈な探り合いと幾度とない試し行為を繰り返してきた自覚がある。
社内では表面上は何もないように過ごしているが、心春とのLINEのやり取りで彼女も結婚願望が強い事実が浮かび上がってきた。
明日にでも入籍したいと話している。
交際7年。
恋愛に関しては熟練者であると、彼女は豪語していた。
はなびは冷めた目で彼女を見る。
これは自惚れもあるかもしれないが、と前置きをした上で、自分の経験則からなる結婚に漕ぎ着けるまでの修羅場を、果たして心春は乗り越える事が可能なのかと。
そう考える事があった。
幾つかの手直しをした事を彼女に伏せて結果を伝え、はなびは再びパソコンの画面に向かった。