第23話 万華鏡世界
文字数 1,555文字
ギリギリまで家で休み、9時6分発の特急列車にそのまま乗り込むのだと言う。
晶ははなびを離さなかった。
何とは言えないが、不思議な何かが。
やがて、実感の湧かぬ、しかし確実に起きている現実は終わりを告げた。
何事もなかったかのように出社したはなびは、いつものように業務に勤しんだ。
集中したいが、頭の中が何処かふわふわするような感覚に見舞われる。
いつものように唐突に声をかけられ、はなびは混乱する。
ゆきこは、はなびの身に何が起こったのかを知らないのだ、とも。
ゆきこの話すもの。
その正体を、はなびは理解していた。
しかし敢えて言及はしないつもりであった。
それにより、ゆきこが微細な優越感に浸り続ける事が出来るだろう、と。
また今日もゆきこの分の仕事を引き受ける事になるのだろう、と思いながら隣のディスクに置きっぱなしになっていた書類を手に取り、目を通した。
違う仕事に取り掛かった頃、ゆきこがディスクに戻った。
ゆきこと自分の認識は、同じものを見ているようでまるで違っているように映るのだろう。
どうやら佐滝の話を聞いて、ゆきこはポジティブな印象を受けたようだ。
まるで世界は万華鏡のようだ、と考える。
見ているものは同じ。
しかし、少しの心の動きで中のビーズが揺れて、世界がまるで違って見えてしまう。