第2話 合コン準備!

文字数 1,437文字

翌日、ゆきこは目の下に酷いクマを作って出社してきた。

うふぉ〜。

昨日の合コンの医者、超やばかったわ〜。

おはようございます。

大丈夫ですか?

大丈夫じゃないわよ〜。

中々オチなくてね。

無理矢理お持ち帰りしてやったのよ。

女側のあたしがよ?

全く最近の草食男子は……。

草食男子なんてスラング、今時は使いませんよ。

お持ち帰りってなんですか?

合コンのお店のお料理をタッパに詰めて持ち帰ったんですか?

はっ!

何いってんの。

お持ち帰りっていうのは、ホテルに行くことを言うのよ。

知らないの?

あんた、もしかして経験ないとか?

経験?

ホテルに?

子供の頃に家族でディズニーランドのホテルに泊まったことはありますよ。

真顔で答えるはなびに、ゆきこは憤怒した様子で声を荒げた。

ばっかじゃないの!

そうじゃなくてね!

ああ、もう。

あんた処女じゃないの!?

男と付き合ったことなんてないでしょ!

男の人とお付き合いですか?

彼氏はいたことありません。

在学中はずっと勉強に集中していましたし、就活の後は仕事のことしか考えていませんので。

ぎいっ!?

彼氏いない歴イコール、年齢!?

信じられない。

イモ娘!

……

暴言を吐かれた気がしたが、はなびは口を噤んだ。

これ以上の言い争いは不毛である。


はなびは回転椅子の向きをPCディスクに向け、キーボードに手を伸ばした。

今日は合コンですよね。

定時上がりになるので、急いで仕事を終わらせないといけません。

ごめんなさい。

集中します。

はっ!

真面目ね!

怒ってんの?

ふん!

はなびは過集中モードに入った。

過集中モードとは、文字通り集中が過ぎる状態である。


過集中になると、意識を向けた対象以外の情報の一切がシャットアウトされる。

ゆきこの戯言は聴覚から遠のき、PC画面に映し出された情報のみがはなびの頭脳の中に入ってくる。

はなびは無心に業務を続けていった。















やがて定時のチャイムが鳴り、はなびはキリよく業務を終わらせてパソコンの電源をシャットダウンした。

お先に失礼します。

今日のお店はランプトシャで良かったんですよね?

そう。

ランプトシャなんて大衆居酒屋みたいな場所、あたしに似つかわしくないけどね。

仕事が終わらないから遅れて行くわ。

だるくって仕方ない。

それでは失礼します。

ゆきこの棘のある言葉を無視して、はなびは席を立った。


ロッカー室に向かうと、自分のロッカーをそっと開ける。

ビジネススーツのまま参加するのは無粋と思い、はなびは着替えを持ってきていた。


ワイシャツはそのままに、ファーのついた上着と少しごつめのネックレスを首にかける。

ジャケットはロッカーに置いておき、明日の出勤時に着ることにした。

タイトスカートとストッキング、いつものパンプスで問題はないように思える。

変じゃないよね?

私、もう25だもの。

OLだから、地味でも大丈夫だよね。

学生だったらもっと派手にしないと笑われちゃうけど。

ああ、年を取るって楽だわ。

少し顔を出して食事をするだけだからと自分に言い聞かせて、はなびは職場を後にした。


肌寒い春の風が頬をさする。

いつものように駅に向かい、家と反対方向の路線に飛び乗った。


電車の窓に映った自分の顔を見て、ゆきことのコスメトークを思い出す。

ほぼすっぴん、か。

まあいいか。

ちょっとリップを引いたけど、全然変わらないもんね。

電車の走る音。

ブレーキ時の重低音。

雑踏のむっとする空気の中、はなびは今日の業務の振り返りを始めた。

抜けは無いはず。

進捗状況は上々。

少しの安堵の後に、はなびは電車の窓の外の景色にそっと視線を向けた。

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登場人物紹介

雪月はなび

冴えないOL

5月生まれの25歳

紫水晶

営業部のイケチャラ男。

2月生まれの25歳。

四線義勇太

はなびの勤める会社の事務の上司。

夏木ゆきこ

はなびの同僚。

7回の転職経験がある。

佐滝右近

はなびが勤める会社の社長の倅。

小満度心春

企画部からの異動者

錦戸達也

晶の友達。

ホストをしている。

紫水晶のLINEアカウント

雪月はなびのLINEアカウント。

小満度心春のLINEアカウント

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