第28話 かんがえること

文字数 1,520文字

翌朝、目を覚ますとスマホにLINEメッセージが来ていた。


はなびはのろのろとスマホの画面を開く。

おはよう。

今日帰るつもりだったけど、念には念を入れてもう一度会議を開くことにしたよ。

帰宅は金曜日だ。

土日に会おうね。

おはようございます。

分かりました。

成功をお祈りしています。

がんばです。

それから幾つかの他愛ないやり取りをして、はなびはスマホの画面を閉じた。


小さな溜息を、一つ吐く。

会いたいは会いたいけど、土日に会うって最初に言ってたもんね。

最初に決めたことを破って、平日に無理矢理会うみたいなロマンスは私も求めていないわ。

お互いマイペース返信。

自分は仕事に集中したい性質である、と自覚している。

昨日のメッセージのやりとりで、晶も同じ姿勢であることが伺えた。



他の異性とお付き合いをしたことがないので男女交際における会話のパターンの経験がないが、漫画や小説ではこのような展開に陥った場合、亀裂が入ることがあるだろう、となんとなくだが予想した。


晶は話すことは優しいが、時折冷静な態度を取ることがある。

それは時に、他者に冷たくみられることもあるだろうとも理解していた。

昔、読んだなあ。

ドSの彼氏の物語。

どの辺りにサディストの要素が見られるのか分からなかったけど、少し意地悪という意味だったのかな。

強気な態度の男性とのやり取りにしか見えなかったけれど。

過去に読み漁った物語群を少し思い起こしながら、はなびはコーヒーの準備を始めた。

その間に、簡易モップで軽く床拭きをする。


土日に晶がまた家に来るかもしれない。

少しずつ掃除をしておかねばならない。

今日は仕事を頑張って、明日は早く帰るか。

念には念を入れて、気合を入れて家の中を片付けておこう。

ホットコーヒーを飲むと、ゆるゆると支度をして家を出た。




出勤すると、はなびのディスクの上に何かが置いてあった。

手にとってみると、それはなんとコンドームの箱であった。

……?

おはようございます。

これは一体?

おはよ。

それ、あげるわ。

サガミオリジナルよ。

そうですね。

しかし、これは……。

税理士と別れたの。

キープしとこうと思ったんだけど、急にヒスってきて、あたしにその箱を投げてきたのよ。

こないだ奢ってやったゴムよ。

ムカつくからあんたにやるわ。

ま、使うことはないでしょうけどね。

そんな……。

受け取れません。

遠慮しなくていいのよ。

あたしって心広いじゃない?

それ、ホテルで買ったからボられて2500円もしたけど。

気にしないでね。

……。

いえ、本当に受け取れませんので。

何度か受け取り辞退の意を示したが、ゆきこは譲らなかった。

彼女の強情な態度に辟易しながらも、はなびは受け取ることにした。



開封済であり、箱の中には銀色の包みが2つ入っている。


正直、受け取りを躊躇するものだ。

しかしお返しを考えねばならぬ、と密かに思う。


更に、ここは値段指定をしてきたと受け取る方が良いだろう。


2500円なら、少し値段を高めに設定して最低でも3000円程度の品を礼品として返さねばならない、と考えた。

本当に申し訳ないです。
ふふ。

あんた、遠慮しいなのね。

全く、しょうがないんだから。

業務に勤しみつつ、はなびは隙間時間に思考をフル回転させてゆきこへの返礼品を考えた。


お菓子が良いか、化粧品が良いか、その他物品が良いか。


その内に、はなびはふとゆきこに訊ねた。

あ!

夏木さんは、韓国コスメとか興味ありますか?

え?

韓国?

超好きだけど……。

そうなんですね。

少し気になって訊いただけです。

業務中にすみません。

ふふ。

なによ、もう。

はなびは大急ぎで業務を切り上げることにした。


終電近くまで残るつもりでいたが、19時には退社するように全身全霊で過集中モードに入り、業務を片付けていく。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

雪月はなび

冴えないOL

5月生まれの25歳

紫水晶

営業部のイケチャラ男。

2月生まれの25歳。

四線義勇太

はなびの勤める会社の事務の上司。

夏木ゆきこ

はなびの同僚。

7回の転職経験がある。

佐滝右近

はなびが勤める会社の社長の倅。

小満度心春

企画部からの異動者

錦戸達也

晶の友達。

ホストをしている。

紫水晶のLINEアカウント

雪月はなびのLINEアカウント。

小満度心春のLINEアカウント

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色