第7話 真面目に!
文字数 1,575文字
右近と上司のやり取りを小耳にはさみつつ、はなびは黙々と業務に勤しんでいた。
集中しよう、とはなびは思った。
雑念が多すぎる。
彼に何を指示しても拒否される。
はなびは何度か事務の仕事を彼に提示したが、ことごとく否定されてしまった。
彼の言動に呆れつつ、はなびは右近にどの業務を頼むべきか悩んだ。
その結果、受付からアポイントメントの表を取りに行く、または営業部から売上伝票を受取に行く仕事のみが受け入れられた。
右近の戯言を聞き流し、はなびは引き続き業務に勤しんだ。
手持ち無沙汰になった右近はどこかへ行ってしまったようだが、特に引き止めることもなく又誰にも引き止められることもなかった。
定時で帰るゆきこを見送り、終電まで仕事をしたはなびは静かに退社した。
力なくコンビニに向かい、食料の買いだめをする。
肉体・精神共に疲労しているため、自炊をする元気もなかった。
チルド食品を買い込み、引き籠もるつもりだった。
軽く食事を済ませて一息ついた頃、はなびはスマホに通知が来ている事に気づいた。
19時頃にメッセージが来ていたようだ。
その頃は業務に集中していたのでまるで気付かなかった。
はなびは溜息をつきながら返信の文句を考える。
ああ、俺もそう思うよ。
デジタル技術が進んでいるとはいえ、まだ痒いところに手が届くようなシステムは出てきていないね。
みんなはAIだなんだと騒ぐけど、俺は信じていないよ。
営業だけど、自分の足でアポを取る方が確実に契約を取れる。
web上だけだと限界があってね。
意外にも真面目な回答を得られ、はなびは少し驚いた。
彼の仕事の姿勢に真剣味が感じられる。
テレカンとはテレフォン・カンファレンスの略である。
つまり、web上での会議のことを指す。
しかし少しずつはなびは睡魔に襲われ、やがて瞼の重さに耐えきれずに意識を手放した。