第6話 新人さん?

文字数 1,439文字

毎日があっという間に過ぎていく。

ある日、上司がはなびの肩を叩いた。

雪月くん。

新人教育をお願いしたいのだが。

は、はい。

紹介しよう。

彼は佐滝くん。

事務の勉強をしたいそうだ。

はじめまして。

佐滝右近です。

初めまして。

雪月はなびと申します。

彼は全ての部署を回って業務を覚える気なのだそうだ。

よろしく頼むよ。

はい。

そんなことが許されるんだ、と思いつつはなびは新しいデスクの準備をした。


左隣にゆきこ、右隣に右近。

質問を受けても、これなら気軽に応えられるだろう。

ここが僕の席?

ありがとう。

雪月さん。

はい。

よろしくおねがいします。

まず最初の業務はメールチェックですけど、既に終わったので収支表を作ることから始めます。

データ入力出来ますか?

ああ、エクセルは分かるよ。

ここに打てばいいんだね?

そうです。

この伝票にある、ここの数字を順々に表のここに打ち込んでいってください。

はあ。

全部手打ちなのかい?

スキャンとか出来ないの?

外注で可能は可能ですけど、セキュリティの問題から自分で打ったほうが安全かつ確実です。

いや、これは問題だな。

ちょっと出てくる。

そう言いながら右近は席を立った。


部署から去っていく彼の後ろ姿を見送りながら、はなびは小さくため息を吐くと彼に指示した業務を始めた。

多分、面倒になったんだろうな。


でも、新しいことを探す時間が勿体ないのよ。

一分一秒でも無駄に出来ない。

黙って打ち続けるのみ。

結局その後、右近が職場に戻ってくることはなかった。

はなびは終電まで残業をした後、静かに退社した。
















食材の買い出しに行かないと。

冷蔵庫が空っぽだ。

自宅の最寄り駅で降りた先に、コンビニがある。

本来なら格安スーパーで買い物をするのだが、この時間は閉店していた。

コンビニに入り、惣菜や冷凍食品を買い漁った。


と、その時。

あれ?

雪月さん?

はい。

……?

突然声をかけられ、はなびは考え込んだ。

顔に覚えがない。

やだなあ。

もう忘れたの?

佐滝だよ。

あ、新人の。

ごめんなさい。

お疲れ様です。

昼間の記憶が思い起こされる。

新人として紹介されたが、すぐにどこかに行ってしまった男だ。

今日はどこに行かれていたんですか?

スキャンについて調べていたんだよ。

一旦家に帰ってパソコンで検索して、スマホのリーダーアプリを試したり。

大変だったー。

そうだったんですか。

お疲れ様です。

やっぱり書面のデータをスマホでスキャンしてエクセルに書き出すのは無理があるようだ。

AIを使ってもうまくいきそうにないよ。

プロンプトが分からないし、有料ソフトを使っても思うようにはいかなかった。

ええっ。

導入するかも分からないのに、有料コンテンツを試したんですか?

それより、そんなに手打ちをしたくないんですか。

当たり前だろう。

この令和の時代に、そんな非効率的に業務にあたるなんて考えられない。

もっとソフトを活用すべきなんだ。

キントーンなんかも調べた。

明日から導入して見ようと思う。

……私の一存では決められませんので、上司の四線さんに相談してください。

なんだって?

……自由が効かない職場は成長出来ないぞ。


ていうか、君のカゴの中身なんだよ。

惣菜ばかり。

料理もしないのかい?

……。


もう日が変わってしまって、スーパーがどこも開いていないんです。

適当に夕飯を済ませる予定です。

では、明日も早いので失礼します。

はなびは足早にレジに向かうと会計を済ませ、帰途についた。

購入品を食べる分だけ取り分けて残りは冷蔵庫・冷凍庫にしまい込み、シャワーを浴びて食事を済ませると、ベッドに潜り込んだ。

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登場人物紹介

雪月はなび

冴えないOL

5月生まれの25歳

紫水晶

営業部のイケチャラ男。

2月生まれの25歳。

四線義勇太

はなびの勤める会社の事務の上司。

夏木ゆきこ

はなびの同僚。

7回の転職経験がある。

佐滝右近

はなびが勤める会社の社長の倅。

小満度心春

企画部からの異動者

錦戸達也

晶の友達。

ホストをしている。

紫水晶のLINEアカウント

雪月はなびのLINEアカウント。

小満度心春のLINEアカウント

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