第26話 異動者

文字数 1,466文字

次の日、はなびが出勤すると、既に席についていたゆきこの髪色が変わっていた。


ショッキングピンクのインナーカラーが入っている。

ねえ。

あたし、幾つに見える?

おはようございます。

……?

30くらい、ですか?

はなびは想像よりもずっと年齢を引き下げて、答えを口にした。


その途端、ゆきこはニンマリと笑みを浮かべる。

ほほ。

やっぱり若く見えるわよね?

あたし、実は43なんだけど、こないだ会った税理士が見た目よりずっと若いとか言うのよ。

嬉しくてカラー入れちゃったわ。

43ですか?

……肌に潤いがありますね。

でしょお?

ドモホルンリンクルを使っているのもあるけど、あたし昔から肌がきれいなのよ。

10代の頃はマスカラとアイブロウとチークしか使ってなかった。

そうなんですね。

ファンデーションはいつから使い始めたんですか?

鼻をやったあとよ。

それからずっとファンデジプシーよ。

……。
鼻をやったとは?

何をしたのだろうと、はなびは少し考えこんだ。


それからゆきこは暫く話しかけて来たが、はなびは適度に流しながら手を動かし続けた。



暫く業務に集中していると、突然義勇太が肩を叩いた。

雪月くん。

突然だが、近日中に異動があるらしい。

事務課に人が来るそうだ。

対応を頼むよ。

えっ。

はい。

あっ、まさか佐滝さんではないですよね?

いや、彼は企画部が気に入ったらしく、そこに部署を決めたというんだ。

そして今回の異動は企画部かららしい。

ああ……。

すみません。

不躾ながら、先日の話はどうなりました?

すぐに企画会議を開いて、プロジェクトの見直しをしたとのことだ。

上手く事が運んだようで、彼も納得したようだ。

やけにすんなり受け入れられたので、企画部長も首を傾げていた。

しかし、なんとか丸く収まったよ。

良かったです。

異動された方の指導ですね。

承知致しました。

よろしく頼むよ。
はなびは胸を撫で下ろした。


新人指導の事を考えると少し気が重くなるが、人員を増えるのは喜ばしい。


その事について深く考えるのを辞め、はなびは再び業務に取り掛かった。




その日の業務は、少し早く切り上げた。

はなびは少し疲れた様子で帰宅の準備を始める。

ねえ。

異動は来週になるらしいわよ。

企画部のデブが来るってよ!

来週ですか。
やたらと手がうるさいから、コマンド入力って呼ばれているらしいわ。

あたしは肥満度って呼び方の方が合っていると思うけど。

コマ?

あ、小満度さんてこの間来ましたね。

その方ですか。

あんた、真面目ねえ。

そこは笑うとこでしょ。

あたし上手いこといったじゃない。

いえ。

……ごめんなさい。

私は面白みのない人間なんです。

全く!

あたしが指導しないと駄目よね!

まあ業務を仕込むのはダルいからあんたに任せるけど!

そう言いながら、ゆきこはポーチを手に取ると事務課を飛び出した。


はなびは溜息を吐いて、荷物をまとめた。

ふとドアの方に目を向けると、人影があった。

あれ?

あ、小満度さん?

雪月さん……。

私、さっきの話聞いてませんから!

あっ!

いえ。

あの……。

夏木さんは元々ちょっと言いすぎるところがあって。

それで、気を使わねばならないことも多くて。

すみません!

知ってます。

夏木さんの噂。

私、佐滝さんに愛想尽かして、異動届を出したんです。

喧嘩しちゃったし。

そうなんですか……。

事務課は人手が足らない状態なので、異動は助かります。

月曜からでしたね?

よろしくお願いします。

あっ。

雪月さんって、思ったよりいい人なんですね。

よろしくお願いします。

あの、連絡先を交換しませんか?

はい。

これから同じ課で働くことになりますもんね。

二人はスマホをかざし、LINEを交換しあった。
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登場人物紹介

雪月はなび

冴えないOL

5月生まれの25歳

紫水晶

営業部のイケチャラ男。

2月生まれの25歳。

四線義勇太

はなびの勤める会社の事務の上司。

夏木ゆきこ

はなびの同僚。

7回の転職経験がある。

佐滝右近

はなびが勤める会社の社長の倅。

小満度心春

企画部からの異動者

錦戸達也

晶の友達。

ホストをしている。

紫水晶のLINEアカウント

雪月はなびのLINEアカウント。

小満度心春のLINEアカウント

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