第51話 かたいあさ

文字数 1,412文字

翌朝、テーブルの上に小皿とコーヒーが二つずつ置かれていた。

それぞれおにぎりが二つと一つずつ乗っている。


そばには、お弁当の包みがあった。

おお!

お弁当だ!

おにぎりは、どっちがどっち?

私は朝は少しでいいので、晶さんが二つの方です。

昆布と梅です。

そうなの?

はなびのおにぎりの中身は?

梅です。

クエン酸回路を活発化させるため。

なるほど。

朝からクエン酸はいいね。 

いただきます。

合理的思考が恒常化されている為、二人は納得の上でおにぎりを手に取った。


朝から梅干しを摂取することで、脳神経回路が正常に働く事を既に理解していたのだった。

昼は血糖値が上がりますよね。

おかずは卵焼きと冷凍唐揚げにしたんですが、卵焼きは味付けが塩のみにしてあります。

なるほど。

しかし、朝から勉強になるな。

卵焼きは甘くても塩だけでも大丈夫だ。

びしゃびしゃにならなければね。

ごめんなさい。

朝から堅苦しい話題を。

ずっとそんな事を考えていたので。

いいよ。

それでこそ俺の奥さんだ。

もしかして、合わせて貰っているのだろうか、とはなびは考える。


しかし、この会話のテンポについていこうとするあたり、やはり晶は普通ではない。

もっとほんわかした会話をします?
何?

愛してるとか?

それはほんわかですか?

私には、嵐の前の静けさに聞こえます。

そう、かもね。
晶はそっと、はなびにキスをする。





       :

       :




はなびは出勤後、急いでパソコンの電源を付けた。

今日も早目に上がらなければならないと思う。

おはようございます!

今日もよろしくお願いします!

おはようございます。

よろしくお願いします。

はなびさん、今日は定時で上がってもいいですか?

デートが入りました!

会社では苗字で呼んでください。

定時退社ですね。

分かりました。

おはよう!

今日もシケたツラしてんね!

おはようございます。
あんね!

三億の医者が指輪のカタログを持ってきたのよ!

凄い値段だけど、将来的に莫大な値打ちが付くから買うべきだって言うのよね。

婚約指輪ですか?

給料三ヶ月分とか。

えっ。

羨ましい。

指輪まで話がいってる??

うふふ。

絶対ローンを組むべきよね。

凄いダイヤモンドよ!

……。
年収三億円も稼ぎがある医師が、婚約指輪のローンを組む事があるものだろうか。


はなびは何か口にしようとしたが、すぐに言葉を飲み込んだ。


明らかに結婚詐欺ではないかと思う。


晶とのやり取りを思い出し、現実とはこういうものだ、と考えるなどした。

甘いが、ふわふわした事を許さない関係性。



頭を切り替え、はなびは業務に集中する。



やがて、昼食の時間になった。

普段なら食堂に向かうが、弁当の包みを持って休憩室へと向う。

あれ?

お弁当でしたっけ?

はい。

今日からおにぎり生活です。

おにぎり?

あ、もしかして貯金でも始めたんですか?

貯金ですか。

あまり出来ていないかも。

ですよね。

この間、私も美顔器のローンを組んでしまいました。

エステより安いと思って。

なるほどです。

では、失礼します。

晶と全く同じ内容のお弁当を持ち、休憩室へと入っていった。

畳の部屋に、お弁当組と呼ばれる顔ぶれが、既に昼食を食べ始めている。

はなびは隅の席に座り、そっと包みを開いた。


黙々と食べ始めながら、周囲を見渡す。


彼らは何を話すこともなく食事を終えると、畳の上に横になった。


気楽だ、と思う。



食後、はなびはスマホを確認する。

晶からLINEは来ていない。


過去のやり取りを辿り、その時の自分は何を考えていたのかの分析を始めた。

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登場人物紹介

雪月はなび

冴えないOL

5月生まれの25歳

紫水晶

営業部のイケチャラ男。

2月生まれの25歳。

四線義勇太

はなびの勤める会社の事務の上司。

夏木ゆきこ

はなびの同僚。

7回の転職経験がある。

佐滝右近

はなびが勤める会社の社長の倅。

小満度心春

企画部からの異動者

錦戸達也

晶の友達。

ホストをしている。

紫水晶のLINEアカウント

雪月はなびのLINEアカウント。

小満度心春のLINEアカウント

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