第3話 出会いなんて…期待しちゃだめ!

文字数 1,595文字

ランプトシャに着いたはなびは、店の入口の前で少々戸惑いつつ中を覗き込んだ。

予約しているかな?

ああ、しまった。

肝心なことを聞き忘れた。

予約の有無、人数の確認などを怠ったことに気づく。

意を決して店内に入ると、店員がすぐに現れた。

はなびは店員と入店名簿表を見比べる。

あの。

予約はありますか?

店員ははなびの姿を見るなり、小さく首を傾げてから頷いた。


「滝田様、6名の予約がありますが……」



滝田さん?

幹事さんの名前かな?

それしか予約がないのなら、それです。

はなびの呼応に店員は頷き、そっと店内に案内する仕草を見せた。


「それでは、こちらへどうぞ」


店員の後に続き、奥まった席に向かう。

通されたテーブルの上には予約席という札と、6膳の箸が並んでいる。

はなびはそっと礼を告げると、隅の席に腰を下ろした。

一番乗りだったかな。

18時スタートって聞いたけど、もう5分も過ぎているのに誰も来ないって……。

お手拭きで手を拭きながら、はなびは内装をそっと観察した。

ライトは明るいものの店内はややほの暗く、手描きの掲示物には小さなイラストが添えてある。

雰囲気の良い、中々良い店だ。

ここの店員さんはPOP作りが上手いのかな。

会議の資料もこんな風にイラストを添えるべきか悩んでいるんだよね。

フリーイラストを検索する時間が勿体なくて……。

暫く業務のことについて考えていると、かすかに足音がした。

ふと顔を上げると、側に男性が立っている。

あっれー?

まだ始まってないの?

もう20分も過ぎてるのに。

こんばんは。

合コンの方ですか?

こんばんは。

そうです、そうです。

滝田に誘われて来たんだけど、君以外来ていないってどういうこと?

みんなスッポカシたのかな。

男性はそう言いながら、騒がしそうな雰囲気を纏いながらはなびの隣に座った。
ひゃ!

男性は向かい側に座るものでは?

えー、いいじゃん、誰も来てないし。

あ、自己紹介しよう。

俺は紫水晶。

紫水晶って書いて

しみず あきら

って読むんだ。

よろしくね!

はあ……。

私は雪月はなびです。

雪月と書いて、せつき と読みます。

へえ!

俺は名前が珍しいことが自慢だったんだけど、君も随分珍しい名前だね!

せつき?

なんか聞いたことあるぞ?

そうですかね。

珍しい名前とは、よく言われますけど……。

それより、ご飯頼んじゃいますか?

ああ、そうしよっか。


適当に頼んじゃおう。

メニュー見せて。

はなびはテーブルの隅にあるメニューを取り、そっと晶に渡した。

軽快な手付きで晶はメニューをめくっていく。

芋煮が有名らしいって聞いたけど、色々あるね。

あまりこういう所、食べに来ないんだよね。

単品で頼むには人数が少なすぎるから、セットでいいかな?

ディナーセットがあるんですか?

そうですね、セットにしましょう。

単品で頼むと高くなっちゃいますよね。

良心的なお店ですね。

晶は焼き肉セット、はなびはすき焼き鍋を頼んだ。


特別メニューの芋煮について少し話したが、頼まないということで意気投合する。

なんか飲む?

俺は下戸だから、酒は飲まないけど。

お冷でいいです。

特に飲みたいものもないし。

というか、本当に誰も来ないですね。

俺もお冷でいいや。

うん。


このままだと、二人だけになっちゃうね。

なんでみんな来ないんだろう?

天井のライトに照らされた晶を、はなびは静かに観察する。

テーブルに映った彼と自分の影が輪郭が2つに見え、上から照らされたライトの数と影を見比べたりなどした。


白熱球を素手で触ると火傷をするなどと考えながら、お冷を口に含む晶を見つめる。

雪月さん、今日は何時までOK?
明日も仕事なので、あまり遅くならないようにしたいです。
晶が更に口を開こうとした時、店員が食事の盆を持って近づいてきた。


二人は口を噤み、それぞれ注文したメニューを受け取る。


晶はカスターを見渡し、カトラリーを取り出すとはなびに手渡した。

ありがとうございます。
じゃあ、食べようか。
二人は静かに食事を始めた。
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登場人物紹介

雪月はなび

冴えないOL

5月生まれの25歳

紫水晶

営業部のイケチャラ男。

2月生まれの25歳。

四線義勇太

はなびの勤める会社の事務の上司。

夏木ゆきこ

はなびの同僚。

7回の転職経験がある。

佐滝右近

はなびが勤める会社の社長の倅。

小満度心春

企画部からの異動者

錦戸達也

晶の友達。

ホストをしている。

紫水晶のLINEアカウント

雪月はなびのLINEアカウント。

小満度心春のLINEアカウント

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