第16話 恋の駆け引き?
文字数 1,783文字
はなびは少し考え込んだ。
既に時計の針は1時半を回っている。
食事に夢中で何も考えていなかったはなびはだが、晶がどのような意図でこれからの行動を訊ねたのかを考え込んだ。
もしかして……。
みだらな妄想が脳裏を駆け巡り、手が少し震えた。
怖い。
経験がないにも関わらず、聞きかじりの性知識は持ち得ていた。
しかして、もしかして自分の自惚れかもしれないと、そんな考えも浮かぶ。
暫く葛藤したあと、そっと口を開いた。
何とも言えぬ高揚感。
体の奥が、不思議と疼く。
期待しているのだろうか。
押してほしいような、ほしくないような。
心の天秤が揺れ動く気がした。
どんどん時間が過ぎていく。
就寝時間の計算を密かに始めた。
居酒屋を出るなら、早いほうが良いかもしれない。
ゴツい時計と、少し日に焼けた肌と。
おずおずと手を伸ばすと、晶ははなびの手を強く握った。
手を握ったまま、二人は見つめ合った。
はなびは時折目を泳がせ、また晶の顔に視線を戻す。
晶は平然とした顔をしている。
同い年なのに……。
と心の中で呟いた。
この人は、自分よりずっと大人だ。
恋愛においても場数を踏んで、口説き慣れしている。
それに比べて、私は全く落ち着かなくて。
免疫もなくて。
はなびは、静かに俯いた。
深夜2時になろうという頃に、少し気のある男性と手を重ね合わせている。
ロマンスだ、と思うと同時に、何故か気持ちが冷めていくのを感じた。
正直に今後の行動を話すのではなかった、と密かに後悔する。
これでは家まで送って欲しいと遠回りに伝えているようなものだ。
または、どこかで宿を共にするべく誘っているように思われてしまう。
そっと視線を落とす。
はなびは慌てて晶の後を追い、カバンを取り返して貰おうとしたが、彼は無視した。
会計の後、晶ははなびの手を取ると、迷うことなく居酒屋の暖簾をくぐり抜けて外に向かっていった。