第27話 唐突に

文字数 1,311文字

帰宅後、はなびが夕食の支度をしてテーブルに付くと、スマホの着信音が鳴った。


はなびは期待しつつスマホを手に取る。

こんばんは。

ようやく商談がまとまりそうだ。

今回はちょっと難しかった。

でもはなびさんのお陰でなんとかなったよ。

こんばんは。

お疲れ様です。

私が晶さんの役に?

覚えがないです。

ほら、喫茶店で話した内容だよ。

あの会話の切り口が功を奏したんだ。

実体験を伴わない話さ。

ああ……。

マーガリンの。

考え方の姿勢というか?

そう。

相手方がフワフワした事ばかり言うものだから、そこを斬ったら話がとんどん進んだよ。

なんだか分かる気がします。

でも、私は昔からそんな話し方ばかりするから、友達が全然増えなかったです。

小学校で1人。

中学校で1人。

高校で1人。

大学でも1人。

それは逆にすごくない?

そういえば、大学はどこ?

豊島区にある女子大です。

家業を継ぐことを求められていたので、資格取得の為に。

何の資格?

家は整体院だっけ?

柔道整復師です。

でも実家を継ぐつもりはないです。

手に職を持っているんだね。

すごいね。

いつか、資格が役立つ日が来るかな。

今は会社の仕事に集中したくて。

それは分かる。

まだ20代だもんね。

俺も上京してから、ずっと仕事に集中している。

彼女も作らなかったよ。

スマホ画面を見つめ、はなびは晶のメッセージを眺めた。


少し迷ってから、再びフリック入力を始める。

仕事に集中して恋人を作らない気持ち、分かります。

私ならキャパオーバーを起こしそうになりますもの。

晶さんは、どうして合コンに参加したんですか?

それに、最初からアプローチしてきましたね。

勢いで打ってしまったが、自分でもキツイことを言っている、とはなびは思う。


通常の男女交際なら、きっと関係性に亀裂が入ってしまうだろう。

そう気付いてから、送信したことを後悔した。


少し心臓が跳ねそうになりながら、返信を待つ。

最初に会った合コンのこと?

付き合いだよ。

誘われる事が多いけど、いつも断っていた。

正直、女の子に言い寄られることも少なくない。

でも、なんでかな。

あの時はどうしても参加しないといけない気がしたんだ。

晶からの返事は柔和であった。


はなびは少し考え込み、力なく返信をフリック入力していく。

縁、ですよね。

私は合コンに乗り気じゃなかったんですけど、あの後で晶さんの事が忘れられずにいました。

やっぱり何かあるんだね。

ね、結婚しようよ。

えっ!

結婚!?

信じられない気持ちで、再びスマホの画面を凝視する。


まさか、本気だろうか?

あまりにも急過ぎる気がする。



先ほどの悔やむ気持ちが吹き飛び、眼の前がチカチカした。


なんて返すのが良いのだろう、とはなびは再び思考に耽る。

次に会った時に、もう少し詳しく……。
分かった。

直接言うよ。

息が上がる。

喉が詰まったようになって、呼吸が出来ない。


どうしてこうなった?

なにが彼をそうさせた?


私は、何を言った?



はなびは混乱に乗じながら、そっとスマホをテーブルの上に置いた。


すっかり冷めた夕食に目をやるが、食欲がにわかに失われている。

しかし、空腹ではある。

明日もある。

食べなければならない。



再びスマホを手に取り、LINEの流れを何度か見返した後、スマホを置いて今度は箸を手に持った。

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登場人物紹介

雪月はなび

冴えないOL

5月生まれの25歳

紫水晶

営業部のイケチャラ男。

2月生まれの25歳。

四線義勇太

はなびの勤める会社の事務の上司。

夏木ゆきこ

はなびの同僚。

7回の転職経験がある。

佐滝右近

はなびが勤める会社の社長の倅。

小満度心春

企画部からの異動者

錦戸達也

晶の友達。

ホストをしている。

紫水晶のLINEアカウント

雪月はなびのLINEアカウント。

小満度心春のLINEアカウント

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