第13話 やらかしを気にする
文字数 1,660文字
はなびは二人の業務を全て引き受けて終電まで会社に残った。
疲労で重くなった体を引きずりながら、静かに退社する。
スマホを確認するが、LINEの通知は来ていなかった。
ふとした瞬間に、彼のことを考えてしまう自分に気づく。
こんなに誰かのことについて考えてしまうなんて、滅多にないことだ。
もしかして、と心の中で呟く。
自分は、彼に惹かれているのだろうか。
すぐに恋に落ちる漫画のヒロイン。
そして葛藤。
ハーレクインの展開。
インターネット上で見かけた、恋愛観に対する批判的な書き込みなど。
「モテない女」
というワードが脳裏を駆け巡る。
晶が自分のことを好きだと言っていた様子が、脳裏に蘇る。
なんとなく気が緩む感じがするが、はなびはすぐに拒否の念を置いた。
自分なんて、という言葉が飛び出してくる。
状況理解の不足により、恥をかいてしまったこと。
晶は気にしていない様子だったが、彼の好意に甘えすぎるのは良くない、と自分に言い聞かせる。
慌ててはなびは電車から降りると、改札を出て自宅に向かう。
彼との他愛ないやり取りが脳内を駆け巡り、連絡を取ろうかという考えが浮かぶ。
帰宅するなりシャワーを浴び、適当に食事を済ませると、はなびは布団に潜り込んだ。
翌朝、目が醒めてすぐにスマホを確認したがメッセージはなかった。
そうこうしている内に出勤時間が迫り、少しの高揚感と落胆と共に支度をすると家を飛び出した。
LINEメッセージを送るだけにしても、行動に移すことに抵抗があった。
過去の幾度とない失敗と哀しみが腰を重くするのである。
友人も少なく、結婚のあてはないが結婚式の際に式に呼べる人が極端に少ないことを自覚していた。
新郎となる相手に申し訳ない想いがあり、また羞恥の念などもあった。
杞憂に過ぎないのだが、見栄が出てしまう部分である。
落ち着かない気持ちで会社に到着し、はなびはぼんやりとした頭のまま業務に取り掛かった。