6-8 まだ途中の未来へ

文字数 993文字

 真っ暗闇で何も見えない。先ほどの白光から一気に視界が暗転したので、まだ目が暗闇に慣れていない。
 それでも踏みしめている地面の感触と、ざわりと擦れる木の葉の音、そしてどことなく懐かしい外の匂いで、ここが故郷だと認識している。
 やがて暗順応により、暗闇にかろうじて木々のシルエットが浮かぶ。あてもなく上り坂を少し歩いて行き、坂の頂上へ着いた。隣には電波塔があり、眼下に広がる景色は――紛れもなく俺の故郷だった。

 俺は深く嘆息した。ようやく、ようやく帰り着いた。そう思った瞬間、体中の全ての力が抜けたように、俺は地面に座り込んでしまった。無意識に夜空を見上げたが、どうにも星々がよく見えない。視界が霞んでいるのか、それともフラクシアの星々がここよりずっと明るく輝いていたからだろうか。それでも、月の明かりがいつもより眩しいのは分かる。
 今いる場所は、俺の住む街の裏山だ。この道から降りていけば、きっと通りへ辿り着くだろう。自分に鞭打つように俺は立ち上がり、丸薬の反動でへとへとの体力を使って、足を引きずりながら歩いた。

 電波塔の先にある道は、確か商店街の交差点へと繋がっているはずだ。過去の記憶を頼りに、俺は明かりのない下り坂を進む。途中で何度も躓き、転んだ。それでも足は止めてはならないと思い、また立ち上がっては歩いた。今は梅雨時なのだろう、夜なのに空気が蒸していて暑い。そう気づいたのが災いしたか、途中で雨も降ってきた。この時期の雨足は容赦ない強さで、より気が滅入ってしまう。
 遠くから、車が濡れたアスファルトを鳴らす音がする。音を頼りに進んでみれば、向こうの道から交差点を右に曲がる車のライトが見えた。もうすぐだ。びしょ濡れになりながら、ぬかるんだ道を歩く。そして、遂に交差点のすぐそこまで来た。だが、そこで俺は限界を迎え、力尽きてしまった。

 泥水の混じった砂利道に倒れ込み、俺の意識は薄れていく。だけど、ここまで来れば誰かが見つけてくれるという安堵と、ここまで来れたという達成感で胸は満たされている。後のことは、俺一人じゃなくても十分だ。
 車のライトが俺を照らしては、無関心を決めてそっぽを向いていく。この雨で視界が悪いのだろう。それでもきっと、誰かが見つけてくれる。そう思いながら、俺は眠るように気を失った。瞼を閉じる直前、暗闇から再び光が差し込み、それが留まっているのが見えた。
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