第21話 父親失格

文字数 478文字

「寒くないかいすみれ。雪はもうすぐ止むよ」
 白い布の盛り上がりから、その手が胸の辺りで組まれていることが分かる。経過時間からして筋肉はすでに硬直しているだろう。

 何度もそばまで手を寄せたが、その手に、その体に触れることは、やはり出来なかった。冷えた硬いすみれの体をこの手に覚え込ませることはどうしても出来なかった。
 柔らかな温もりだけを記憶しておくことが、すみれの供養になると思えた。それこそがすみれだったから。



 さよならをしないままいなくなってしまったすみれ。明日は楽しみにしていたお休みだったのに、あのスーパーの100円ショップやゲームコーナーに、すみれの笑顔が弾けることはニ度とない。

 二年前からではなく、きっと生まれた時から、自分は父親失格だったのだ。それをすみれが伝えてきた事故死だったのだ。

「鳴海さん」看護師の声に我に返った。
「まだ熱が下がっていないのでおやすみになったほうがいいですよ」
 小さく頷く看護師に、はい、と頷きで返した。
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