第11話 外園と呼ばれる男
文字数 1,357文字
「杉浦さぁの具合 はどげんな?」
「まだ熱が高 っかようじゃ」
「夜はまだ寒 かでね。ただん風邪やったらよかどん、こいでもし飛べんごつなっしもうたら、可哀想 」
「体ん弱かと?」
「うんにゃぁ、知らんど。ここで初めて会うたでね。じゃっどん、飛行機乗りが体ん弱かこっはなかじゃろう。
こん人の飛行技術は並じゃなか。歴戦の戦闘機乗りに違いなか。そいが、何故 特攻になぁ」
「凄 な腕じゃとみんなが言 ちょっけど、そげん人には見えもはん。顔が優しか」
「こん人 は心根も優しか。階級が下んおいどんが、杉浦さぁと呼びかくっことに怒りもせんで、にこっと笑 ろ。心ん広か人 や。こげん人はおらん。そいに、男前 じゃ」
「あたしはこんお人を好 いちょっ。わっぜ好 っじゃ。ないごてこがん惹 かるっか……自分でもよう分かりもはん」
「ん、最後まで面倒を見てやったもんせ。あ、じゃった。明日でよかで、靴下ん穴が開 っしもうて、繕 いをしれくれんか。釘 に引っ掛けっしもうて」
「今しもんそか」
「明日でよかじゃ。洗濯 っいつもあいがとね。さっちゃんな、小 か体でよう頑張 っちょ。ついでに顔も可愛 ぜ。背負 たカバンに押し潰されんごっせんなね」
「外薗 さぁが肥えすぎじゃ」
「五月蝿 ぁ」爽快な笑い声が遠ざかり、枕元で小さい笑い声がした。
またこの夢か……。
「目が覚めたと? 外薗さんな声が太 かで」
「ここは──知覧 だね」
「杉浦さんな、お熱が出て記憶が飛んじょらんか」サチと名乗った娘は心底心配したように眉を曲げた。
「時々変なことを言うかもしれないから、覚悟しといて」
「怖 じど」サチが笑った。
「顔も──むぜ」頭に残った鹿児島弁を口にしてみただけだったが、サチはプイと横を向いた。頬が赤らんでいる。
女性に向けてむやみに口にしてはいけない言葉のようだ。
東京に住んでいた学生の頃、夏休みを使って鹿児島に旅したことがある。ゼミの先生の「日本人であるなら、一度は知覧を訪ねるべきだ」という言葉に押された形だった。
観光をかねて鹿児島市内に宿を取り、維新の英傑西郷隆盛最期の地、城山に登り手を合わせ、桜島に渡った。
何を買おうとしたのかは忘れてしまったが、天文館近くの店にいるときに鼓膜が圧迫される不思議な現象に襲われた。
「噴いた噴いたぁ。夏じゃっでへがふっど」
鹿児島の言葉は九州全般のものとはかなり異なり、短縮化する特徴を持っていて、津軽弁と並んで日本で最も分かりにくい方言としても有名らしい。
へがふっど。訳せば灰が降るよ。どうやら観光客だと見抜いた自分に向けて発した店主の言葉だった。夏だから東風に乗って市街地に火山灰が降る。そう言っていたのだ。その言葉どおり、やがて町は灰色に霞 んだ。
その旅のメインイベントとして知覧を訪ねた。知覧特攻平和会館は胸が痛むような資料が数多く展示されている。
「まだ熱が
「夜はまだ
「体ん弱かと?」
「うんにゃぁ、知らんど。ここで初めて会うたでね。じゃっどん、飛行機乗りが体ん弱かこっはなかじゃろう。
こん人の飛行技術は並じゃなか。歴戦の戦闘機乗りに違いなか。そいが、
「
「こん
「あたしはこんお人を
「ん、最後まで面倒を見てやったもんせ。あ、じゃった。明日でよかで、靴下ん穴が
「今しもんそか」
「明日でよかじゃ。
「
「
またこの夢か……。
「目が覚めたと? 外薗さんな声が
「ここは──
「杉浦さんな、お熱が出て記憶が飛んじょらんか」サチと名乗った娘は心底心配したように眉を曲げた。
「時々変なことを言うかもしれないから、覚悟しといて」
「
「顔も──むぜ」頭に残った鹿児島弁を口にしてみただけだったが、サチはプイと横を向いた。頬が赤らんでいる。
女性に向けてむやみに口にしてはいけない言葉のようだ。
東京に住んでいた学生の頃、夏休みを使って鹿児島に旅したことがある。ゼミの先生の「日本人であるなら、一度は知覧を訪ねるべきだ」という言葉に押された形だった。
観光をかねて鹿児島市内に宿を取り、維新の英傑西郷隆盛最期の地、城山に登り手を合わせ、桜島に渡った。
何を買おうとしたのかは忘れてしまったが、天文館近くの店にいるときに鼓膜が圧迫される不思議な現象に襲われた。
「噴いた噴いたぁ。夏じゃっでへがふっど」
鹿児島の言葉は九州全般のものとはかなり異なり、短縮化する特徴を持っていて、津軽弁と並んで日本で最も分かりにくい方言としても有名らしい。
へがふっど。訳せば灰が降るよ。どうやら観光客だと見抜いた自分に向けて発した店主の言葉だった。夏だから東風に乗って市街地に火山灰が降る。そう言っていたのだ。その言葉どおり、やがて町は灰色に
その旅のメインイベントとして知覧を訪ねた。知覧特攻平和会館は胸が痛むような資料が数多く展示されている。