第13話 陸のゼロ戦 隼「はやぶさ」

文字数 785文字

「サチさん、今は何月かな?」
「んだもしたん(あらまあ)、どげんしもんそかい(どうしましょう)。さっそく出もした。今は4月ですが。4月の11日の水曜日です。杉浦さん、ほんのこて大丈夫(だいじょ)っですか?」
「あぁ、たぶん」

 航空戦力の枯渇(こかつ)した沖縄戦の末期には、九九高練や二式高練。海軍の練習機『白菊』のような練習機までが特攻に投入されていったという。

『赤トンボ』の愛称で親しまれていた海軍の複葉の中練までも投入されたという記述も読んだ記憶がある。特攻は学徒動員があって初めて成り立った人命無視の戦法だった。

「4月ということは、まだ隼があるね」
「杉浦さんの飛行機は隼ですがね。僕の愛機だよ、一式戦の二型だよって初めて会うた時に()ちょったじゃなかですか。しっかいしっくいやい(しっかりしてください)」
 サチは泣きそうな顔をした。

 そういうことか。杉浦という人物は徴兵ではなく軍人であり、おそらくは、陸軍航空士官学校出の戦闘機乗りなのだな。サチの二の腕をそっと叩き鳴海は苦笑した。



 一式二型か。隼があるなら、杉浦という人物はなんとか特攻を成功させるだろう。

 旧日本軍の戦闘機といえば海軍の零式艦上戦闘機、零戦があまりにも有名だ。攻撃こそ最大の防御と言わんばかりの零戦は、戦闘能力はずば抜けていたものの、防弾性能は紙と呼ばれるほどに(もろ)かった。米軍にしてクレイジーと言わしめた戦闘機だった。

 一方、陸の零戦と呼ばれた隼は防弾性能が高く、航続距離と旋回性能とある程度のスピードを実現したバランスのとれた陸軍の名機だった。エンジンは零戦と同じものを積んでいたが、航続距離は驚異的な3.000kmを誇った零戦よりも長かったとも言われている。
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