27話 蛇(後編)

文字数 2,537文字

「光よ! その姿を鳥に変え、邪なる者に鉄槌を!! アウィスレイ!!」

空を裂いて現れたレイの、凛と通る声。
それに応えるように、レイが広げた両手から光が溢れる。
光は一瞬で鳥の形を成すと、群れとなり蛇達に突き刺さり、あっという間に五匹全てを切断した。
「レイ!」
リルが歓喜の声を上げる。が、首根っこを掴んでいた蛇が消えたせいでリルは地面にべチンと顔から着地した。
久居は、リルよりずっと高いところに縫い止められていたが、何とか無事着地すると、すぐさま腹部を治癒し始めた。
一方でレイは、ズダン!! と強引にカエンとリルの間に着地したが、かなり無理をしたらしく脂汗がじわりと額に浮かんでいる。

カエンは優雅に数歩下がると、レイに一礼した。
「おや、天使様が我が家になんの御用でしょうか? 訪問のお約束は承っていませんが?」
「……時の魔術師の居宅を襲い、その弟子を連れ拐ったのは貴方で間違いありませんか?」
レイが、カエンへ厳しい視線を送る。
その視線を軽く受け流すと、カエンが肩を竦めて見せた。
「そんな大それた事、私がすると思いますか? 大方部下が先走ってしまったんでしょうね、それに関しては謝罪しましょう。大変申し訳ない事をしてしまいました」
さらりと、悪びれる風もなく答えたカエンに、レイは顔を歪ませる。
「ーーっそれで、あの男は自爆したのか……?」
「そうですか。彼なりに責任を取ったんでしょうね」
絞り出すような声のレイに対して、カエンは変わらぬ優雅さだった。
カエンの言葉に、レイは嫌悪感を滲ませる。
「……それでは、この二人は?」
レイが半歩下がって、視線でリル達を指す。
「さあ、それはこちらが聞きたいですね? 私の城の壁を壊して入り込んできた不届き者を、追い払おうとしていたまでですよ?」
カエンはあくまでシラを切り通すつもりらしい。

「……お前達は、それでいいのか?」
レイが肩越しにリルと久居を伺う。
リルが久居を見たので、結果全員の視線が久居に集まった。
「ええ、私達は、カロッサ様さえ返していただければ……」
久居が、まだ苦しげな声で、しかしハッキリと答える。
その返事に、当然だといわんばかりの顔をしていたカエンが、わざとらしく驚きを浮かべた。
「なるほど、それは失礼な事をしてしまったね。てっきり物取りか何かと思ってしまったよ」
カエンは、もうこの場をこれで終わらせるつもりなのか、と全員が思いかけた時、ふっとカエンがレイに視線を戻した。
「ところで、天使様は近頃この近辺で四環の守護者が変わったのはご存知かな?」
不意に変わった話題に、レイが目を小さく見張る。
「四環……? いえ、初耳です。そもそも四環は、人が持つ限りは天界も獄界も手を出さないのがルールですから」
レイは、耳にした単語が何だったかを思い出すのに少し時間を要した後、きっぱりと答えた。
「……そうだね。いやあ、私もちょっと耳にしただけですよ」
カエンがにこりと微笑んだ。
レイの様子を見る限り、天使は四環については関わりがないと踏んだのだろう。

結果、カエンはあっさりとリル達を帰した。

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そんなわけで、リル達は現在、空竜でカロッサの家……の跡地へと向かっていた。
レイは、カロッサを無事送り届けるまでは、と、空竜と並んで飛んでいたが、徐々にへばってきたので途中で久居が空竜に乗るよう誘った。

「い、や……、すまない……、あまり、長距離飛ぶのは、難しいんだ……」
久居が、息切れしているレイに水筒から水を汲んで差し出す。
カロッサは、肩で息をする天使が面白いらしく、さっきからクスクス笑っていた。
「あははっ、ふっ。ぷははっ。いや、ごめんごめん、これだけ飛べればかなり飛べる方よねぇ。若いのに凄いわー」
目尻に滲んだ涙を細い指先で拭いながら、カロッサがフォローを入れる。
レイは、間近で見るカロッサの笑顔に、まだまだ動悸が収まりそうに無いようで、相変わらず耳まで赤く染めていた。

久居は、カロッサと合流した途端、土下座せんばかりの勢いで、自分の不手際によってカロッサを危険に晒した事を謝罪し倒していたが、無事カロッサの赦しを得て、今はリルの火傷を治した後、自分の怪我の治癒にあたっていた。

もちろん、カロッサには久居達を責めるつもりは毛頭なかったどころか、カロッサ自身に非があると思っていたため、謝りたいとも思っていた。しかし、久居の怒涛の謝罪に押され「だ、大丈夫大丈夫。全然、本当、なんともなかったから」と伝えるので精一杯だった。

リルは、疲れが出たのか、久居に寄りかかるようにしてうつらうつらし始めた。
久居が片腕でなんとかリルを抱えようとするのを、レイが気付いて声をかける。
「久居はその傷、もう一度開いて治すのか?」
久居の脇腹は、まだ抉れたままの形で、ひとまず止血がしてあるのみだった。
「え、ええ、そのつもりです……が」
「リル、眠いならこっちくるか? 久居に集中させてやったほうがいい」
人間が、そこまでの治癒術を使えるという事に内心驚きを感じつつ、レイが声をかける。
「んー……レイ抱っこー……」
「抱っこじゃないだろ、支えといてやるだけだぞ。ていうかお前いくつなんだよ」
力なく、てろんとレイへ伸ばされたリルの両手をぐいと引っ張り、レイがリルを胡座の中に入れてやると、「ボク十七歳だよー……」とつぶやいてリルが目を閉じた。
「十七だったのか、思ったより幼かったんだな」
レイの言葉に、久居が驚いて顔を上げる。
視線を感じて、レイが久居を見た。
「ん? これも知らなかったか? 鬼で十七なら、人間だと八つってとこだ」
「……そう……なのですか……」
リルの成長が遅いことは知っていたが、まさか半分ほどとは思っていなかった久居がショックを受けて呆然とする。
その様子に、カロッサが慌ててフォローを入れる。
「で、でもリル君は普通の鬼より成長が早いから、もう少しは上なんじゃないかしら? 十か十一くらいには見えるわよ?」

「そう、ですね……」
カロッサの言葉に頷いたきり、久居は黙って俯いた。
なぜか酷く落ち込んでしまった久居に、レイとカロッサがどう声をかけるべきかと悩み始めた頃。
「すみません。これが何か、お二人はお分かりですか?」
と久居が少し青ざめた顔で、傷痕を指して尋ねた。
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登場人物紹介

リル (リール・アドゥール (reel・adul))  [鬼と妖精のハーフ]


フリーの双子の弟

17歳 6月25日生まれ 身長150cm 体重はかなり軽い

頭のてっぺんにちっちゃなツノ有り

種族の関係上、見た目は10~11歳程度


よく食べてよく寝る、小柄な少年。

外見はひょろっとしているが鬼由来の腕力は人の比ではない。

潜在能力は物凄いものの、まったく制御が出来ない(汗)

逆に言えば、今後一番成長していける子。

久居 (ひさい)


苗字は記憶と共に喪失

21歳 5月生まれ(日は不明)身長170cm 体重は思ったより軽い

髪型のせいか態度からか、老けて見られる事が多い

8歳の冬、海辺に打ち上げられていたところを、菰野とその母に拾われて以降、菰野の傍を片時も離れず菰野の面倒をみながら育つ。

拾われる以前の記憶には部分的に抜けがある。

自分の存在意義を菰野に見出しており、菰野の為なら惜しみなく命も手放す。


過去のトラウマから、首元に触れられると意識を失う体質のため、真夏でも首元に布を巻いている。

幼少時から常に丁寧語で話す癖があり、咄嗟のときも、心の声も全て丁寧語。

クザン(玖斬 閻王)[鬼]

作中ではほとんどカタカナ表記


リルとフリーの父親。外見年齢は38歳。実年齢は76歳。

鬼の中でも特に長命。


獄界より、リルを獄界に連れて行かないことを条件に、

年間300以上の特に面倒な魂送の仕事を押し付けられている。

年中あちこち飛び回っていて超多忙。


駆け落ちしてまで一緒になった妻と共に居られる時間が無さすぎる事や、

子ども達の成長を見守れない事が現状すこぶる不満。

リリー・アドゥール (lily・adul) {妖精}


リルとフリーの母親。37歳。


妖精の村を隠す為、山にぐるりと張られた結界の管理者。

彼女にしか出来ない仕事というのが多く、案外多忙。

結界を扱うその能力は群を抜いている。


村長の娘ではあるが、妖精以外の種族との子を産んでしまったため、村から離れた結界ギリギリの場所に、ポツンと家を建てて家族3人で暮らしている。

子供達の安全の為、夫とは別居しているものの、夫婦仲はすこぶる良好。

空竜(くうりゅう)[自然竜]


リルやカロッサにはくーちゃんと呼ばれている、もふもふの自然竜。

大気を取り込み体の大きさを自由に変えることが出来る、持久力に優れた竜。

大きくなるのにそこそこ時間はかかる。

最大サイズでの最高時速は650km程度。


空竜というのは個人名ではなく、ただの種族名。

カロッサ [妖精]


時の魔術師に拾われてからようやく人らしい生活を知った、元孤児。34歳。


リリーとは同じ師の元で学んだ姉妹弟子。

リリーが初めての年の違い友達で、唯一の親友。


一時期クザンやラスが時の魔術師の家に転がり込んでいたことがある。

時の魔術師に多大な恩を感じており、一生をかけて返したいと思っている。

クリス(偽名?)


四環守護者の生き残り。17歳。

『風』と『雲』の腕輪を扱う事ができる。


村を焼き親兄弟を焼いたラスを恨んでいる。

牛乳(ぎゅうにゅう)[猫]


白い毛並みに青い瞳の猫。

クリスを守っている。……と本猫は思っている。

クリスを恋人のように大事に思っているが、クリスは気付いていない。

名前はクリスが付けた。

ヘンゼル


ラスに利用されている現地の貴族の青年。でもあまり役に立ってない。

本人としては、ラスの方を利用しているつもり。

ラス(ラスカル)[鬼]


四環を狙っている鬼。外見は永遠に14歳。

どうやらカロッサ達と面識があるらしい。

レイ(レイザーランドフェルト=ハイネ・カイン=シュリンクス)[天使]


身長180cm 体重73kg(内、翼10kg)+鎧3kg(アルミ程度の重さの素材)=総重量76kg

空を飛べるように骨は中空構造となっており、人間よりは骨折しやすい。外見年齢22歳。


時の魔術師の警護を担当している天使兵。

カロッサがヨロリと二人きりになった頃から警護担当となり、

毎日姿を見ているうちに、いつの間にかカロッサに惚れていた(初恋)

すぐ赤くなったり青くなったりする事を、自分でも気にしている。


仲間からはレイザーラ、リル達からはレイと呼ばれる。

特技は光魔法。わりと技能派。

色々と有能なのに、いつも不憫。

サンドラン(サンドラングシュッテン)


レイの学生時代からの友達。

緑色の髪にオレンジの瞳。

無邪気で悪戯っぽく笑う、仲間思いの青年。

サラ(サーラリアモン)[天使?]


黒い羽を持つ少女。外見年齢18歳。

父さんのためなら何でもできる。

逆に、父さんの関わらないことは全てどうでもいい。

カエン(火焔)[鬼]


外見年齢は25歳で時間停止中。実年齢は86歳。


クザンより年上の、クザンの甥っ子。

クザンが生まれるまで、閻王の名は自分が継ぐものと思っていた。

(レッコク)烈黒[鬼]


外見年齢27歳ほどの鬼。作中に名前は出てこない。

カエンに仕える鬼のうち、筋骨隆々と背の高い方の、背の高い方。


頭の左右から2本ずつ生えていたツノのうち、左側の2本はヒバナに折られている。

ヒバナ(火端)[鬼]

作中では『変態』と呼ばれることの方が多い。

外見年齢は25歳で時間停止中。実年齢は204歳。


クザンの母に仕えていた従者。

主人の死後、そのままクザンに仕えている。

フリー・アドゥール(free・adul) [妖精と鬼のハーフ]


リルの双子の姉。

14歳 6月25日生まれ 身長155cm 体重は普通 歳のわりに胸がある

背中にトンボのような羽と、頭に触角有


現在菰野と共に凍結中。

菰野 渡会 (こもの わたらい)


地方の藩主の姉の息子。久居の主人。

15歳 10月10日生まれ 身長160cm 体重は見た目より重い 童顔


現在フリーと共に凍結中。

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