37話 再覚醒(3/6)

文字数 1,624文字

「いいか、ちゃんと休めよ、無理はすんなよ、絶対だぞ!!」
と、クザンが久居と菰野に過保護気味に言い渡して獄界に帰ると、リリーはフリーを連れて、村長へ挨拶に行くと村へ向かった。
フリーは、それまでのようにリリーと家で暮らすらしい。

久居は、菰野を小屋で休ませると、夕食の支度に取り掛かっていた。
「ねえ、久居、コモノサマ泣いてるよ?」
ととと、とリルがやって来て言った。
菰野は声を殺して泣いていたのかも知れないが、それでもリルの耳には届いてしまったのだろう。
「それはよかったです」
久居が、少しだけ眉を寄せながらも笑顔で応える。
リルは、不思議そうに首を傾げて繰り返した。
「……良かったの?」
「ええ」
そこへ、どよんと澱むレイの声が割り入った。
「良くない……俺が入りづらい……」
本気で気にしている様子のレイに、苦笑を浮かべて久居が答える。
「手前のお部屋でお休みいただいてますので、日暮れ前には奥に入ってくださって結構ですよ」

一部屋のみだった小屋は、二人が凍結されていた部屋に床板を張り、二部屋に拡張された。
ついさっき、レイも一緒に作業したところだ。

「いや、入りづらいだろ……」

レイがやれやれとかぶりを振る。
レイから見た菰野は、まだまだ子どもだった。
言動はリルの比ではないほどしっかりしていたが、大きな瞳や、高めの柔らかい声、柔和な笑顔が、膜越しに見ていた時よりも、ずっと幼い印象を与えていた。

「俺は、お前の主人を何で呼んだらいいんだ?」

リルに配膳を頼んでいた久居が、レイの言葉に意外そうな顔をして振り返った。

「そんな心配をしていたのですか?」
「いや、リルも様付けしてるし……」
「あぁ……」と久居がこめかみあたりを押さえて声を出す。
「?」
「いえ、それは、リルが菰野様をそういう名前だと思い込んでいるのだと思います」
「……そうなのか?」
「おそらく」
「うーん……」
まだ悩んでいる様子のレイに、久居が助言する。
「レイは遠慮なく呼び捨てていただいてかまいませんよ。もう菰野様にはお立場という物もございませんので」
「リルも、呼び捨てでいいのか?」
「はい」
そう言われて、レイがリルのところへ駆けていく。
「ううん、ボクはこのままでいいよ。ボクは、コモノサマの事、凄くコモノサマだと思ってるから」
「よく分からん」という感想付きで、リルの返事をレイが持ち帰る。
どうやら、リルは三年のうちに自分で間違いに気付いた上で、納得してそう呼び続けていたようだ。

久居は、改めてリルの成長を侮っていた自分を恥じる。葛原の件もリルは何も気付いていないものと、勝手に思い込んでいた。
当時はそうだったのかも知れないが、炎を使うようになれば、思い出すきっかけはいくらでもあったのだろう。

見れば、リルが耳を手で囲って音を拾おうとしている。
誰か来たようだ。
「フリーが来るよー」
久居はもう一人分用意しておいた食器類を、リルに運ぶよう頼んだ。
そうして、久居は七人分とおかわりの入った重い大鍋を持ち上げた。
途端、足元が崩れたような感覚とともに、久居は平衡感覚を失った。
「!」
貧血による眩暈だ。
急に動かないよう気を付けていた久居だったが、不意の眩暈と、これ以上動きそうにない手足に歯噛みする。
鍋に入った全員分の夕食がダメになるだろう事実に激しく後悔しながらも、視界が暗くなってゆくのに抵抗できずにいる久居を、レイが支えた。
「っと、危ないな」
レイが覗き込んだ久居の顔は、青白い色をしていた。
「久居も少し休んだほうがいいんじゃないか? 治癒の時、無理し過ぎだってクザンさんも言ってたろ」
久居から鍋を受け取りながら、レイが言う。
「……はい、そうします」
付き添おうとするレイをやんわり断って、久居は木陰で木にもたれて目を閉じる。

そこへ、フリーがやって来た。
姉の姿に喜ぶリルとほんの少し会話をしてから、フリーは、真っ直ぐ久居の元に来る。
「菰野に会っても、いいですか?」
金色の髪を揺らして、妖精は、真剣な眼差しで、久居にそう尋ねた。
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登場人物紹介

リル (リール・アドゥール (reel・adul))  [鬼と妖精のハーフ]


フリーの双子の弟

17歳 6月25日生まれ 身長150cm 体重はかなり軽い

頭のてっぺんにちっちゃなツノ有り

種族の関係上、見た目は10~11歳程度


よく食べてよく寝る、小柄な少年。

外見はひょろっとしているが鬼由来の腕力は人の比ではない。

潜在能力は物凄いものの、まったく制御が出来ない(汗)

逆に言えば、今後一番成長していける子。

久居 (ひさい)


苗字は記憶と共に喪失

21歳 5月生まれ(日は不明)身長170cm 体重は思ったより軽い

髪型のせいか態度からか、老けて見られる事が多い

8歳の冬、海辺に打ち上げられていたところを、菰野とその母に拾われて以降、菰野の傍を片時も離れず菰野の面倒をみながら育つ。

拾われる以前の記憶には部分的に抜けがある。

自分の存在意義を菰野に見出しており、菰野の為なら惜しみなく命も手放す。


過去のトラウマから、首元に触れられると意識を失う体質のため、真夏でも首元に布を巻いている。

幼少時から常に丁寧語で話す癖があり、咄嗟のときも、心の声も全て丁寧語。

クザン(玖斬 閻王)[鬼]

作中ではほとんどカタカナ表記


リルとフリーの父親。外見年齢は38歳。実年齢は76歳。

鬼の中でも特に長命。


獄界より、リルを獄界に連れて行かないことを条件に、

年間300以上の特に面倒な魂送の仕事を押し付けられている。

年中あちこち飛び回っていて超多忙。


駆け落ちしてまで一緒になった妻と共に居られる時間が無さすぎる事や、

子ども達の成長を見守れない事が現状すこぶる不満。

リリー・アドゥール (lily・adul) {妖精}


リルとフリーの母親。37歳。


妖精の村を隠す為、山にぐるりと張られた結界の管理者。

彼女にしか出来ない仕事というのが多く、案外多忙。

結界を扱うその能力は群を抜いている。


村長の娘ではあるが、妖精以外の種族との子を産んでしまったため、村から離れた結界ギリギリの場所に、ポツンと家を建てて家族3人で暮らしている。

子供達の安全の為、夫とは別居しているものの、夫婦仲はすこぶる良好。

空竜(くうりゅう)[自然竜]


リルやカロッサにはくーちゃんと呼ばれている、もふもふの自然竜。

大気を取り込み体の大きさを自由に変えることが出来る、持久力に優れた竜。

大きくなるのにそこそこ時間はかかる。

最大サイズでの最高時速は650km程度。


空竜というのは個人名ではなく、ただの種族名。

カロッサ [妖精]


時の魔術師に拾われてからようやく人らしい生活を知った、元孤児。34歳。


リリーとは同じ師の元で学んだ姉妹弟子。

リリーが初めての年の違い友達で、唯一の親友。


一時期クザンやラスが時の魔術師の家に転がり込んでいたことがある。

時の魔術師に多大な恩を感じており、一生をかけて返したいと思っている。

クリス(偽名?)


四環守護者の生き残り。17歳。

『風』と『雲』の腕輪を扱う事ができる。


村を焼き親兄弟を焼いたラスを恨んでいる。

牛乳(ぎゅうにゅう)[猫]


白い毛並みに青い瞳の猫。

クリスを守っている。……と本猫は思っている。

クリスを恋人のように大事に思っているが、クリスは気付いていない。

名前はクリスが付けた。

ヘンゼル


ラスに利用されている現地の貴族の青年。でもあまり役に立ってない。

本人としては、ラスの方を利用しているつもり。

ラス(ラスカル)[鬼]


四環を狙っている鬼。外見は永遠に14歳。

どうやらカロッサ達と面識があるらしい。

レイ(レイザーランドフェルト=ハイネ・カイン=シュリンクス)[天使]


身長180cm 体重73kg(内、翼10kg)+鎧3kg(アルミ程度の重さの素材)=総重量76kg

空を飛べるように骨は中空構造となっており、人間よりは骨折しやすい。外見年齢22歳。


時の魔術師の警護を担当している天使兵。

カロッサがヨロリと二人きりになった頃から警護担当となり、

毎日姿を見ているうちに、いつの間にかカロッサに惚れていた(初恋)

すぐ赤くなったり青くなったりする事を、自分でも気にしている。


仲間からはレイザーラ、リル達からはレイと呼ばれる。

特技は光魔法。わりと技能派。

色々と有能なのに、いつも不憫。

サンドラン(サンドラングシュッテン)


レイの学生時代からの友達。

緑色の髪にオレンジの瞳。

無邪気で悪戯っぽく笑う、仲間思いの青年。

サラ(サーラリアモン)[天使?]


黒い羽を持つ少女。外見年齢18歳。

父さんのためなら何でもできる。

逆に、父さんの関わらないことは全てどうでもいい。

カエン(火焔)[鬼]


外見年齢は25歳で時間停止中。実年齢は86歳。


クザンより年上の、クザンの甥っ子。

クザンが生まれるまで、閻王の名は自分が継ぐものと思っていた。

(レッコク)烈黒[鬼]


外見年齢27歳ほどの鬼。作中に名前は出てこない。

カエンに仕える鬼のうち、筋骨隆々と背の高い方の、背の高い方。


頭の左右から2本ずつ生えていたツノのうち、左側の2本はヒバナに折られている。

ヒバナ(火端)[鬼]

作中では『変態』と呼ばれることの方が多い。

外見年齢は25歳で時間停止中。実年齢は204歳。


クザンの母に仕えていた従者。

主人の死後、そのままクザンに仕えている。

フリー・アドゥール(free・adul) [妖精と鬼のハーフ]


リルの双子の姉。

14歳 6月25日生まれ 身長155cm 体重は普通 歳のわりに胸がある

背中にトンボのような羽と、頭に触角有


現在菰野と共に凍結中。

菰野 渡会 (こもの わたらい)


地方の藩主の姉の息子。久居の主人。

15歳 10月10日生まれ 身長160cm 体重は見た目より重い 童顔


現在フリーと共に凍結中。

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