文字数 780文字

 カラスやハトにバチバチぶち当たられながら、やっとジェット機のハッチを閉めたと思ったら、一瞬まわりがシンとなって。鳥たちがパラパラと飛び去って行った。後に残ったのは、飛び散ったハトやカラスの羽根と、傷ついて力尽きた何十羽というハト。

 あれ? アキラくんは? とあたりを見回したら、タラップの下で血にまみれたアキラくんがぐったりと横たわっているのが目に入った。

 思わず悲鳴を上げて、急いでタラップの下へ降りる。
「アキラくん! アキラくん!」
 しばらく頬っぺたをピタピタ叩いて声を掛けていると、小さな唸り声を上げてアキラくんが気付いた。ぼんやりと開いた目に次第に光が戻ってくる。

「あ……」
「大丈夫? 血まみれよ? どこかケガしてない?」
「血……? 怪我………」
 アキラくんは茫然とした顔でゆっくり起き上がった。

 その、陶器のような顔や白いTシャツに点々と散った血飛沫。
 ヒラヒラと羽毛が舞い散り、不謹慎にもキレイだと思ってしまった。

 アキラくんはそろそろと周囲の光景を確認し、息をのんだ。
 どこか、頭でも打ってしまったのかしら?
「大丈夫?」
 もう一度訊く。
 アキラくんはそれには答えず、Tシャツに散った血を見て、言葉もないという風だ。
 ただただ、放心している。

「オレは……、怪我して………ない。でも……」
 手の届くところで絶命していた不自然な方向に首が曲がったハトを、震える手で手繰り寄せる。
「こいつらには……済まないことをした。本当に……申し訳ないことを……」
 アキラくんは、手やシャツが血まみれになるのも厭わず、そっとハトの死骸を抱きしめて頭を垂れた。
「ごめん……。本当に………こんなことになるなんて……。許してくれなんて言わない………利用したオレが、……最低だ」
「アキラくん………」
 色々、聞きたいこと正したいことがたくさんあったのに、私は何も言えなかった。
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登場人物紹介

アイン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。

軌道上に停泊している宇宙船から、地球の様子を撮影して動画配信している。

地上活動をする時は、義体と呼ばれる地球人を模したアバターと同期する。

オゼンと行動を共にする前は、争いごとの仲裁をするネゴシエイターを生業としていた。

人当たりがよく陽気な性格。自分を受け入れてくれたオゼンが大好き。


相馬瞳(そうまあきら)

アインが同期するアバター。

身長167㎝。男性。

「草食系男子」の設定。

オゼン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。アインよりも年長で、体高が2mほどある。

アインからの提案で、フリゲート艦であった宇宙船を基地局に改造して動画配信している。

義体との体格ラグが苦手で、地上活動をするのは得意ではない。

かつては武器製造業を生業としていたが、職種変えした過去を持つ。

アインの声に惚れて自艦に引き入れたものの、思いの外若かったので微妙に距離を取りたい……。


空知聖(そらちさとる)

オゼンが同期するアバター。

身長195㎝。男性。筋肉質。

義体との体格ラグを少なくするために、アインが発注して高身長のアバターを作ってもらった。

木崎麗(きざき うらら)


アラサー独身。東雲綜合警備保障の広報課勤務。

かつては世界大会で名を馳せたアマチュア格闘家。

177㎝、78㎏超級で活躍していた剛健なイメージから、

現役時代は社のイメージキャラクターを勤めていた。

もっか婚活中だが、格闘家のイメージが強すぎて上手くいかないのが悩み。

柴田正樹(しばた まさき)


28歳。独身。

激務に疲弊して退職し、失業保険と貯金の切り崩しとで生活している。

今後の身の振り方に迷っている最中、とある不思議現象に遭遇してしまい

陰謀論者団体の片棒を担ぐことになる。

本人は慎重なつもりだが、簡単にコロリと説得されてしまう素直な性格。


パイ


アイン、オゼンと同じ星系人。義体などのアバター製造を得意とする。

タワーマンションの上階ワンフロアを買い上げて、外星系人のための義体レンタル業をしている。


遠州律子(えんしゅう りつこ)

パイが同期するアバター。筋骨隆々のガタイの良いオカマ。

外星系人向け会員制ラウンジ『夜間飛行(ヴォル・ドゥ・ニュイ)』のママ。

「宇宙人生活相談」的なこともしている。

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