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文字数 1,117文字
「はぁン。美しいと何でも似合うのねぇ」
パイ……もとい、律子さんはクネクネとシナを作りながらオレを眺めまわしている。今日の律子さんは、藍白地の加賀友禅に龍村の七宝紋の帯。黒髪ショートボブのヅラを被っている。和服ってやつは、ガタイがいいと似合うんだな。
オレときたら、メイクは言わずもがな。髪もなんだかいじり倒されてたし。なんだ? この爪。カラフルなチップ? を貼り付けられて長さ3割増し。満足に指先もつかえねーじゃん。
「でしょー、律子ママ。アキラくん、
ベテランホステスが律子さんに同調した。似合うって、てめ、胸元をフリルで盛ってるデザインだから何とかなってるが、「ツルペタ」だからな。にしても、スリップドレスって背中がスッカスカなんだな。胸のある子は、どうしてんだ?
横目でチラリと稼働中の3Ⅾカメラを確認する。この程度の広さの部屋ならコンマ秒の速度でスキャンできる。あとからオゼンがホログラム再生した映像を編集する手筈になっている。あーあ、ヤツの加虐的嗜好を満足させるに足る作品になるだろうよ。きっとしばらくはイジられるんだ。
律子さんの店が完全会員制なのは理由がある。ここにいるホステスのほとんどが、いわゆる外部星系人だ。今のオレみたいに義体の者もいれば、特徴を服の下に隠している者もいる。当然、客もそういう感じだ。中には、同郷のものと腹を割って吞みたいと希望する客もいて、その場合は素に戻ってVIPルームで対応することになっている。
「ねぇねぇ、鏡みるぅ?」
律子さんが姿見を引っ張ってきた。支度中の他のホステス達も興味津々でこちらを見つめている。何の気なしに、鏡に映る自分の姿を見た。へぇー……。ふつーに高等生物の雌じゃん。雌雄の区別には胸の凹凸はあまり重要ではないんだな。艶っぽくなった紅い唇をなぞって、変に感心してしまう。
「オレ、……雌の義体でもよかったんじゃ?」
「ンまぁ! 素で、『オレ』とか『マジイカレテル』とか言う女の子は認めませんっ!」
律子さん、面白いくらいにプルプルして大憤慨。
「ンだよ。どうせオレ等、雌雄同体なんだから、いいじゃんか」
下唇を突き出して文句を言うと、律子さんがオレの頬っぺたをつねった。
「郷に行かば郷に従え、よ。
「ふぇーい」
別に痛いわけじゃないが、オレは素直に返事をしておいた。