文字数 1,377文字

 それっぽい贋クレジットを添付して、オレは配信開始ボタンを押した。
 ノンフィクションを過剰に演出してフィクションにしたて、面白可笑しくキャプションを付けてやった。観たものはよくできた映像作品だと思うだろう。正確なところをばらされると困る方面もあろうと思われるので、こういう形の配信にしたわけだ。視聴数をどれほど稼げるかは謎だが、最近こういう活劇っぽいものはなかったから、受けるかもしれない。受けたらいいなぁ。そしたら、居住区の仕切りをぶち抜いてモニタ室と編集室を繋げるリフォーム費用がゲット出来るかもしれない。全滅してしまった情報収集ギミックの替えも調達できるかもしれない。……いつものアインが、戻ってくるかもしれない。

 惚れたのは「声」だ。オレはそれで、アインの虜になった。ところが、実際会ってみるとあんなチビガキで驚いた。「オレんとこに来るか?」と誘った手前、追い返すわけにはいかなかったから一緒に住むことにしたが、日々話さないわけにはいかないからな。声を聞いては悶々として、姿を見ては「こりゃ犯罪だよな」と反省する。でも、まぁ、そろそろいいのかな……と思ったころにあっちから鳥肌モンの声で「ペアリングしねーか」だもんな。ンなもん、面食らうわ。

 アインは交渉人(ネゴシエイター)だった。オレが加担していた組織と対立組織に抗争が勃発した時に、相手方が連れてきたのがアインだった。お互いの「体力の削り合いは避けたい」という思惑を丹念に掘り上げ、どちらも面目を保つ形で矛を収めさせた。その交渉能力の鮮やかさ以上に、スピーカー越しの声。オレはそれにゾクッとしたんだ。 

 もともと、ヒトと関わるのは面倒くせーと思う方だった。もらえるものもらっときゃ、それで満足だった。一生のうちで同星系人に出会えるチャンスなんてそれこそ、無きに等しいと思ってた。アインが同星系人と知ってこれは運命だと思ったんだ。

 アインに出会ってオレの世界は格段に広がった。もともと人と人とを繋げる交渉人だったアインは、人々が集まるところを知っていた。そうして今まさにエネルギーの塊となって変化を繰り返している生命に溢れた星があることも。

「星間飛行の孤独を知ってるオレ等は、出会った知的生命体を侵そうなんてまずは思わない。でも、孤独を知らない生き物はそうは思わないらしい。同じ星の上を分かち合っているくせに互いの些末な違いを認められない幼い生き物に、いきなり我々を理解しろなんて無理な話だよな。だから、バレないようにするんだ。基本オレ等はこの星を『見てるだけ』さ」
 アインはそう言って微笑んだ。

 この星の軌道上にオレの艦を据えてステルスシールドを張った。艦に搭載されていた各種レーダーを使用することで配信業が出来るんじゃないか、と言い出したのはアインだ。オレ等が見て楽しめるモノは、きっとみんなも見たいはず。星間の孤独を知っている仲間に発信して孤独を埋めてあげられるはず。地上で高等生物に紛れて生活している限られたコミュニティで楽しんでいた配信を広範囲に飛ばせるようにした。そうしたら、皆、考えていることは同じだったんだろうな。瞬く間に私設基地局が乱立して、今ではこの星の軌道上に配信ネットワークが構築されてチャンネルも増えた。今ではこの星全体が巨大な電波塔になっている。知らぬはこの星の生き物ばかりなり、だ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

アイン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。

軌道上に停泊している宇宙船から、地球の様子を撮影して動画配信している。

地上活動をする時は、義体と呼ばれる地球人を模したアバターと同期する。

オゼンと行動を共にする前は、争いごとの仲裁をするネゴシエイターを生業としていた。

人当たりがよく陽気な性格。自分を受け入れてくれたオゼンが大好き。


相馬瞳(そうまあきら)

アインが同期するアバター。

身長167㎝。男性。

「草食系男子」の設定。

オゼン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。アインよりも年長で、体高が2mほどある。

アインからの提案で、フリゲート艦であった宇宙船を基地局に改造して動画配信している。

義体との体格ラグが苦手で、地上活動をするのは得意ではない。

かつては武器製造業を生業としていたが、職種変えした過去を持つ。

アインの声に惚れて自艦に引き入れたものの、思いの外若かったので微妙に距離を取りたい……。


空知聖(そらちさとる)

オゼンが同期するアバター。

身長195㎝。男性。筋肉質。

義体との体格ラグを少なくするために、アインが発注して高身長のアバターを作ってもらった。

木崎麗(きざき うらら)


アラサー独身。東雲綜合警備保障の広報課勤務。

かつては世界大会で名を馳せたアマチュア格闘家。

177㎝、78㎏超級で活躍していた剛健なイメージから、

現役時代は社のイメージキャラクターを勤めていた。

もっか婚活中だが、格闘家のイメージが強すぎて上手くいかないのが悩み。

柴田正樹(しばた まさき)


28歳。独身。

激務に疲弊して退職し、失業保険と貯金の切り崩しとで生活している。

今後の身の振り方に迷っている最中、とある不思議現象に遭遇してしまい

陰謀論者団体の片棒を担ぐことになる。

本人は慎重なつもりだが、簡単にコロリと説得されてしまう素直な性格。


パイ


アイン、オゼンと同じ星系人。義体などのアバター製造を得意とする。

タワーマンションの上階ワンフロアを買い上げて、外星系人のための義体レンタル業をしている。


遠州律子(えんしゅう りつこ)

パイが同期するアバター。筋骨隆々のガタイの良いオカマ。

外星系人向け会員制ラウンジ『夜間飛行(ヴォル・ドゥ・ニュイ)』のママ。

「宇宙人生活相談」的なこともしている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み