文字数 1,364文字

「柴田さん! こんなとこ来て何やってるんですか?」
 床に這いつくばっている柴田さんは、前髪が額にぺったり貼りつく程の大汗をかいていた。オレの声に顔を上げて、目ん玉が落ちるんじゃないかと思うほど目をかっぴらいている。

「何? アンタ、この人と知り合いなの?」
 パイが、険しい顔をしてオレを見る。えー、ちょっと説明難しいなぁ。ほっぺをポリポリ掻きながら苦笑いを返す。
「知り合い……ってか、ハト仲間?」

「仲間なんかじゃないっ!」
 被せ気味に柴田さんが必死の形相で叫んだ。
「コイツはハトを機械化して監視しているんだっ! 政府と繋がって、警備会社と結託して、我々罪のない市民をっ、監視するシステムを構築して支配しようとしているんだっ」

 周囲がシンとなる。柴田さんの言い分のところどころが合ってて間違ってるから、面白すぎて思わず口元が緩んでしまった。

「笑い事じゃないぞ! 騙されないからなっ!」
 柴田さんはオレを指さして怒鳴る。人のよさそうな顔して電波ちゃんだったのか、このヒト。こういうタイプの人って、納得する証拠さえあればまたコロリと意見が変わるんだよな。そうこうしているうちに、黒服が柴田さんの首根っこを掴んでずるずる引っ張っていった。パイこと律子さんは他のボックス席へお詫びに行った。

 ようやっとオレのはす向かいに腰かけたウララさんが、大きく溜息を付いて胸をなでおろす。
「ちょっと前、うちの郵便受けにヘンなビラを入れたの、あの人だったのね」
「ビラ?」
 オレが首をかしげると、ウララさんは頷いた。
「『政府が監視してる』とか『窓辺の鳩に気をつけろ』とかいう……」
「ああ……」
 オレが駅前公園でもらったやつと同じかも。

 完全置いてけぼりのシムーさんが、咳払いした。
「どう言うことなんだね?」
 このヒトは頭よさそうだからオブラートに包んでも解るな。
 オレはウララさんとシムーさんを交互に見てから説明を始めた。

「オレの知り合いが飼っていたハトが4羽もいなくなるって事件があったんですよ。オレ、その調査のために来たんです。柴田さんは、その調査の途中で知り合って、話を聞いたら、どうやら4羽のうち1羽のハトが柴田さんちのベランダで死んでいたらしいことが解って……。一度、お宅にあげてもらったんです。死んでいた状況が解れば、なんかヒントになるかも、と。そこで、カラスの存在が判明したんですよね」
「ほほう」
 思った通り、シムーさんは意図を察してくれたようだった。キラリと目を光らせて頷いた。
「自分ちのベランダでハトが死んでるなんて、相当ショックだったんですね。その後、オレが行ったから、ヘンな妄想が入っちゃったのかな?」

「カラス?」
 今度はウララさんが蚊帳の外になった。シムーさんが説明する。
「我々がセキュリティ担当しているマンションでカラスが悪さをしているらしいんだ。ア…キラくんは、それを話してくれていたんだよ。なるほど、そういう繋がりだったんだな」
 今、シムーさんてば「アイン」って言いそうになった。オレは目だけ天井を見上げた。

「改めて……久しぶりだね、木崎君」
「あ、はい。社長」
 シムーさんの言葉に、ウララさんは姿勢を正して恐縮する。
「カラスの処遇についてアキラくんと協力することになったので、キミには連絡係をお願いしたいんだ。よろしく頼むよ」
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登場人物紹介

アイン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。

軌道上に停泊している宇宙船から、地球の様子を撮影して動画配信している。

地上活動をする時は、義体と呼ばれる地球人を模したアバターと同期する。

オゼンと行動を共にする前は、争いごとの仲裁をするネゴシエイターを生業としていた。

人当たりがよく陽気な性格。自分を受け入れてくれたオゼンが大好き。


相馬瞳(そうまあきら)

アインが同期するアバター。

身長167㎝。男性。

「草食系男子」の設定。

オゼン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。アインよりも年長で、体高が2mほどある。

アインからの提案で、フリゲート艦であった宇宙船を基地局に改造して動画配信している。

義体との体格ラグが苦手で、地上活動をするのは得意ではない。

かつては武器製造業を生業としていたが、職種変えした過去を持つ。

アインの声に惚れて自艦に引き入れたものの、思いの外若かったので微妙に距離を取りたい……。


空知聖(そらちさとる)

オゼンが同期するアバター。

身長195㎝。男性。筋肉質。

義体との体格ラグを少なくするために、アインが発注して高身長のアバターを作ってもらった。

木崎麗(きざき うらら)


アラサー独身。東雲綜合警備保障の広報課勤務。

かつては世界大会で名を馳せたアマチュア格闘家。

177㎝、78㎏超級で活躍していた剛健なイメージから、

現役時代は社のイメージキャラクターを勤めていた。

もっか婚活中だが、格闘家のイメージが強すぎて上手くいかないのが悩み。

柴田正樹(しばた まさき)


28歳。独身。

激務に疲弊して退職し、失業保険と貯金の切り崩しとで生活している。

今後の身の振り方に迷っている最中、とある不思議現象に遭遇してしまい

陰謀論者団体の片棒を担ぐことになる。

本人は慎重なつもりだが、簡単にコロリと説得されてしまう素直な性格。


パイ


アイン、オゼンと同じ星系人。義体などのアバター製造を得意とする。

タワーマンションの上階ワンフロアを買い上げて、外星系人のための義体レンタル業をしている。


遠州律子(えんしゅう りつこ)

パイが同期するアバター。筋骨隆々のガタイの良いオカマ。

外星系人向け会員制ラウンジ『夜間飛行(ヴォル・ドゥ・ニュイ)』のママ。

「宇宙人生活相談」的なこともしている。

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