3-side1

文字数 1,223文字

 こんなに近かったとはな。

 オレは、柴田という高等生物の住居空間の「ベランダ」という外に突き出したスペースに居た。目の前、2ブロックほど先にパイの住む高層マンションが見える。
 生活水準や趣味嗜好が多様であることは知識で知っていたが、それにしてもこの狭さはどうだ。振り向いて閉鎖空間の方を眺める。視線の先には直ぐ出入口だ。この、間の空間が居住スペースらしい。軌道上のオレの住空間でさえもう少し広いし、目的に沿った複数の空間を持っている。逆にこれを多目的スペースと思えばいいのか。

 ワイヤレスイヤフォンを模したフォーカスを使って周囲を探査する。先程から「強力な信号の発信源が近くにある」と警鐘がなっていた。これまで、発信源の存在を確認できたのは、パイのマンション周辺と駅前と、オフィス街の3か所。それに何の意味があるのかも分からない。ともかく、情報収集ギミックの一基は、ここで壊れてた。殺風景なコンクリ打ちっぱなしのベランダの床を見る。

「アキラくん、お茶が入ったよ」

 柴田がベランダに顔を出した。

「ありがとーございます」

 オレは笑顔を作って、ベランダの柵から離れた。
 と、警鐘と信号がひときわ強くなる。すぐ後ろだ。
 え? ここ、3階だぞ?
 慌てて振り返る。黒い影がよぎった。あれは……。

「あー。カラスだね。ほらそこ、うちのベランダのすぐ下がアパートのゴミ出しする場所だからよく来るんだよ」

 柴田が気だるげに言った。
 オレのメモリが高速回転して集めた情報を整理し始める。
 強い信号を出す飛翔体。
 高等生物の生活環境に居ても違和感のないモノ。
 もともとHATOに害をなす習性を持つ。
 まさか、KARASUか!

 オレは柵に駆け寄って下を覗き込んだ。フォーカスから投影されるガイドが、今まさにゴミを漁っている黒い鳥を赤い〇で囲って発信源を明らかにしている。う。コイツにビーコンを付けようにもタブレットはバッグの中だし、さすがに柴田の前で操作は出来ない。オレの焦りをあざ笑うかのように、黒い鳥はオレの頭上を飛び去って行った。舌打ちしそうになるのを、奥歯に力を入れて耐える。大丈夫だ。相手の姿は解った。ここに来る、ということも。てことは、オレのギミックを破壊したのは習性とも言い切れない。もし、アレが何らかの操作を与えられる代物を搭載しているのだとしたら、誰かの意図ということになる。そうだとしたら……これは厄介だ。

 オレはサンダルをそろえて居住空間の内に入った。幸いと義体は顔色まで反映出来る程高性能ではない。オレは表面上では何喰わぬ顔で柴田の前に座ることができた。

「カラスって、ゴミを荒らすんでしょ? 迷惑ですよね」
「まあね。色々試してみてはいるんだけど、カラスって頭いいから」

 柴田は顔を顰めた。
 確か、あの黒い鳥もむやみに殺すことができない種類だったはずだ。あの鳥の駆除を頼もうかと思ったけど、この人のよさそうな高等生物を犯罪者にしてしまうのは忍びない。
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登場人物紹介

アイン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。

軌道上に停泊している宇宙船から、地球の様子を撮影して動画配信している。

地上活動をする時は、義体と呼ばれる地球人を模したアバターと同期する。

オゼンと行動を共にする前は、争いごとの仲裁をするネゴシエイターを生業としていた。

人当たりがよく陽気な性格。自分を受け入れてくれたオゼンが大好き。


相馬瞳(そうまあきら)

アインが同期するアバター。

身長167㎝。男性。

「草食系男子」の設定。

オゼン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。アインよりも年長で、体高が2mほどある。

アインからの提案で、フリゲート艦であった宇宙船を基地局に改造して動画配信している。

義体との体格ラグが苦手で、地上活動をするのは得意ではない。

かつては武器製造業を生業としていたが、職種変えした過去を持つ。

アインの声に惚れて自艦に引き入れたものの、思いの外若かったので微妙に距離を取りたい……。


空知聖(そらちさとる)

オゼンが同期するアバター。

身長195㎝。男性。筋肉質。

義体との体格ラグを少なくするために、アインが発注して高身長のアバターを作ってもらった。

木崎麗(きざき うらら)


アラサー独身。東雲綜合警備保障の広報課勤務。

かつては世界大会で名を馳せたアマチュア格闘家。

177㎝、78㎏超級で活躍していた剛健なイメージから、

現役時代は社のイメージキャラクターを勤めていた。

もっか婚活中だが、格闘家のイメージが強すぎて上手くいかないのが悩み。

柴田正樹(しばた まさき)


28歳。独身。

激務に疲弊して退職し、失業保険と貯金の切り崩しとで生活している。

今後の身の振り方に迷っている最中、とある不思議現象に遭遇してしまい

陰謀論者団体の片棒を担ぐことになる。

本人は慎重なつもりだが、簡単にコロリと説得されてしまう素直な性格。


パイ


アイン、オゼンと同じ星系人。義体などのアバター製造を得意とする。

タワーマンションの上階ワンフロアを買い上げて、外星系人のための義体レンタル業をしている。


遠州律子(えんしゅう りつこ)

パイが同期するアバター。筋骨隆々のガタイの良いオカマ。

外星系人向け会員制ラウンジ『夜間飛行(ヴォル・ドゥ・ニュイ)』のママ。

「宇宙人生活相談」的なこともしている。

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