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文字数 1,285文字
「えーと、お食事の時間は……」
タイムラインは組み上がっているから、イレギュラーなことが起きない限り問題ない。ファングのオーバーホールは主に可動部分と動力源みたいでコアはいじらないみたいだから、最悪分からないことがあればアドバイスを請うことは出来る。
なになに……? 高齢の方は、柔らかくて食べやすいものを深めの皿に入れて提供すること。某高級半生フードがお好きな方一覧? 水のみ皿の好み? 今年お生まれになったお子様たちの注意事項? 前頼まれた時より注文が増えてない? 皆さん方もお世話に慣れ切って、随分我儘を言うようになったんだな。なんだよ、この「食後の犬用チ〇ールは抱っこして給仕してね」っつのは。お姫様か?
「うぉっち!」
突然後ろからどつかれてよろける。振り返ると、茶色い毛皮を纏った大型犬が、尻尾を振って目をキラキラさせていた。
「アイン? アインか?」
「はい、そーですけど、ブラウさん」
ブラウさんは犬型星系人。血気盛んなお年頃で、遊ぶことと散歩が大好き。やんちゃ坊主というのがピッタリな陽気な性格だ。
「今日は私が散歩の日なのだ! 共に出かけてくれるな?」
ええ? マジ? 外に出る用事もあるのか? 慌てて個別スケジュールに目を通す。
「その後、トリミングに行くのだ。男前にしてもらうのだぞ!」
「トリ……ええ? そういうガラでしたっけ?」
「失礼だな。以前シャンプーに連れて行ってもらった店に、贔屓のトリマーがいるのだ」
贔屓のトリマーだって? ったく、人生をエンジョイしまくってんな……。
くっそー。こちとらオゼンに付きまとってやろうと思ってたのに、「こないだの顛末の編集作業で忙しいから、オマエにかまってやれねぇ」とか言って編集室から締め出されて、挙句の果てにはオレの居住区からの音声伝達装置もミュートしやがって、こうなったら非常用ゲートから無理くり侵入してやろうかと思ったら、ファングからの突然の依頼。
オゼンに、「ペアリングしねーか」って持ちかけただけなのになぁ。
オレんとこ来るか? って誘ったのはあっちなのにさ、いつまでたっても居住区は別で「当分一緒にする気は毛頭ねぇ」とかぬかすし。どういうつもりなんだよ、全く。
「はぁ………」
皆さんの食事がすんだら、ブラウさんつれて散歩に行くか。トリミングの予約時間まで軽く気分転換する時間がありそうだし。
……そういや、この義体使ったのってハトにギミックくっつける作業してた時以来だな。あの時は、パイに頼んで数体の義体を日替わりで使ったのでメンテがかさむからって、チップを多めに払ったんだよな。
あれ……? その時なんか遭ったような気がしたけど……なんだっけ?
忘れた。
まぁ、忘れるくらいなんだから、大したことじゃないんだろ。