編集室

文字数 1,032文字

「んで、ここがパイの店の支度部屋でさ、ここに居るキラキラしたヒトたちが、お客を接待するメンツなわけ、でね」
「あー、ちょ、ちょっと待った。……アイン?」
「なんだよ。オゼン」
「なんでオマエが編集室に居て、オレのすぐ傍でガーガー喚いているわけさ」
「悪いか?」
「悪い、つか、狭い」

 ここはオゼンの居住区の、いわゆる画像処理部屋。ホログラムモニタを再生するのでオレの居住区より広い。てか、スケール的にオレよりオゼンの方が体格がいい。だからこそ、ギャップを避けるために義体を操作するのはオレ。モニタを確認するオゼンとなるべく同じ目線に居たいオレは、オゼンの膝の上的なところに居座っている。

「オマエがそこに居たら、球状デバイス使えんじゃんか」
「ホロデバイスにしろよ」
「えらそーに! いつもなら自分の居住区から音声サポートするだけだろ?」
「オレがネタって時点でイレギュラーなんだよ。編集もイレギュラーで対応しろや。それに、今しゃべるのはオレ! 文句ばっかり喚き散らすその口つぐんでオレの話を聞け」

 撮ってきた画像は、視覚情報。音声情報は翻訳ソフトで聞き取ることは出来るが、前提条件が解らなければ理解はできない。異星人異文明間でメッセージをやり取りする場合、自分の生態や文化に翻訳して理解することが必要だ。編集する側は、受信する側のそういった事情を考慮した上でデータを作成する。生存歴がオレより長くて他星系人との接触経験の多いオゼンの方が適任だ。

 視覚情報だけでは補完出来ない情報をオレが説明している内に、問題の個所に来た。支度室で盛られまくってるオレ、の義体。客観的に見たのは初めてだ。ふうん。こんなことされてたんだな。

「え? なにこれ、アイン?」
「ああ、これがオレの義体。パイのチョイス。オレの趣味じゃない」
「へー……。整っててバランスいいじゃん。オレはいいと思うぞ」
「そう……かなぁ」
「いつか下の世界を義体でデートすんのもいいかもな」

 オレは首を傾げた。

「義体ってさ、視覚と聴覚、触覚は同期できるけどさ、大きな殻に閉じ込められて空を流離っている感じなんだよ。アバターを操って、体験できる冒険は楽しいよ。でも、音声ですらオゼンと繋がれないから、今回ばかりはメッチャ孤独」
「まーたまた、とーとつにデレるじゃん」
「だから、オレのためにちょっとくらい狭くても我慢しろよ」
 オゼンの6本指の腕が左右両方からすらりと伸びてオレを抱きしめる。
「そういう理屈なら、歓迎だ」

 この、捻くれ者め。
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登場人物紹介

アイン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。

軌道上に停泊している宇宙船から、地球の様子を撮影して動画配信している。

地上活動をする時は、義体と呼ばれる地球人を模したアバターと同期する。

オゼンと行動を共にする前は、争いごとの仲裁をするネゴシエイターを生業としていた。

人当たりがよく陽気な性格。自分を受け入れてくれたオゼンが大好き。


相馬瞳(そうまあきら)

アインが同期するアバター。

身長167㎝。男性。

「草食系男子」の設定。

オゼン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。アインよりも年長で、体高が2mほどある。

アインからの提案で、フリゲート艦であった宇宙船を基地局に改造して動画配信している。

義体との体格ラグが苦手で、地上活動をするのは得意ではない。

かつては武器製造業を生業としていたが、職種変えした過去を持つ。

アインの声に惚れて自艦に引き入れたものの、思いの外若かったので微妙に距離を取りたい……。


空知聖(そらちさとる)

オゼンが同期するアバター。

身長195㎝。男性。筋肉質。

義体との体格ラグを少なくするために、アインが発注して高身長のアバターを作ってもらった。

木崎麗(きざき うらら)


アラサー独身。東雲綜合警備保障の広報課勤務。

かつては世界大会で名を馳せたアマチュア格闘家。

177㎝、78㎏超級で活躍していた剛健なイメージから、

現役時代は社のイメージキャラクターを勤めていた。

もっか婚活中だが、格闘家のイメージが強すぎて上手くいかないのが悩み。

柴田正樹(しばた まさき)


28歳。独身。

激務に疲弊して退職し、失業保険と貯金の切り崩しとで生活している。

今後の身の振り方に迷っている最中、とある不思議現象に遭遇してしまい

陰謀論者団体の片棒を担ぐことになる。

本人は慎重なつもりだが、簡単にコロリと説得されてしまう素直な性格。


パイ


アイン、オゼンと同じ星系人。義体などのアバター製造を得意とする。

タワーマンションの上階ワンフロアを買い上げて、外星系人のための義体レンタル業をしている。


遠州律子(えんしゅう りつこ)

パイが同期するアバター。筋骨隆々のガタイの良いオカマ。

外星系人向け会員制ラウンジ『夜間飛行(ヴォル・ドゥ・ニュイ)』のママ。

「宇宙人生活相談」的なこともしている。

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