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文字数 1,143文字
「何だったのかしらねぇ」
アタシは顎に人差し指をあてて首を傾げた。あの子もアインの被害者なのかしら。アインってば、最強のコミュニケーションお化けだから、普通にしてても勘違いさせまくりの行動をとっちゃうからねぇー。冴えないサラリーマンの義体でもヘンなの釣ってきてたから、いっそカワイイ義体にしたらどうなるかしらー? と思ったアタシも大概悪趣味だわ。
ま、いいか。
ウララちゃんがいきおいよく閉めた扉を開けて中に入る。
「ごめんなさいねぇ。ビックリしたでしょ? 私もよ」
ベッドの上に寝そべっていたファングは、サラサラの髪を揺らしてクスクスと笑った。
「あの子、相当ビックリしてたわよ。いいの?」
「んまぁ、『自分が見たものは何だったのか』は、ご想像にお任せしましょう」
ファングはベッドの上に座るとシーツを外した。左右のわき腹から延びるカテーテルを抜いて、ベッドわきの燃料タンクから繋がるホースを納めた。
「先日、アインが訪問した後に燃料切れしちゃって……」
「そうそう。2度目の訪問で見つけてくれたのよね」
「ホントに助かったわ」
ファングは外部星系人でも義体でもなく、言うなれば
「この体も大分長いから燃費が悪くなってきてるのかしら。燃料警告ランプが付いたと思ったら直ぐ動けなくなるって、ちょっとおかしいわ」
「そうねぇ。最近、オーバーホールした?」
「……ちょっと覚えが無いわねぇ」
「じゃぁ、都合のいい日を教えなさい。予定を空けておくわ」
「ありがとう。警備会社の人にお世話係の代役をお願いしなくちゃいけないから、予定が決まり次第すぐ連絡するわ」
ファングはそう言いながら服を着始めた。
「それにしても皇女様が無事、ご家族と再会できてよかったわ」
「ええ。それはホントに。お陰様で皇女様ご家族とシムーちゃん両方からたっぷり謝礼をいただいて、アインたち大分潤ったはずなのだけどねぇ……」
アタシは溜息を付いた。
「ハトを大量に死なせたことでショック受けちゃって、『配信業止める』って言い出しちゃって……」
「あらまぁ。それは残念だわ」
ファングはサラサラヘアをかきあげながら心底残念そうに言った。
「折角オゼンが物騒な業界から足を洗ったとこだったのにねぇ」
「それもそうだけど、寂しさ極まったアインが『妊活する』って言いだして、オゼンが泡喰っちゃってるわよ」
アタシの呟きに、ファングは目をまん丸くしてこちらを見た。
ええ。本当なのよ。