4-side3

文字数 1,091文字

 久しぶりにリーダーから呼び出しがかかった。なんだろうか、この神がかったタイミングは。呼び出されたところで、報告できるようなことは何もないのだが。アレは……まだ、自分の中で捜査中なので報告できる段階ではないし。

 とっぷり日も暮れたころ、リーダーに呼ばれた時間通りにリーダー宅のインターフォンを鳴らす。ややあって、スピーカー越しのくぐもったリーダーの声がした。

「江戸っ子だってねぇ」
「すしを食いねぇ」
「入って良し」

 いつ聞いても合言葉が意味不明だ。何だって『森の石松』なんだかわからない。

 通されたリビングルームは不思議に青臭いにおいがした。

「今日はなんのお茶ですか?」
「ドクダミ茶を煎じてみたのよ。庭に生い茂っていて邪魔くさかったので全部引っこ抜いて殲滅させたのよ。見せしめにカラッカラに干してやったわ。終いには『敵を食らう』の精神ヨ。先日から飲みまくってやっているわ」

 柔らかに微笑むリーダーだが、口から飛び出すセリフは物騒極まりない。

「あなたは本当に精力的に活動してくださっているわ。お陰様で同士は着実に増えている」
「それはよかったです」

 どうやらリーダーに紹介した者は、そのまま同行の士となっているらしい。

「ところで、本日呼び出されたのは……」

 自分から切り出すと、リーダーの瞳がキラリと光った。

「……そこにおかけなさい」

 ソファに座るように促される。当然のように目の前に供されるドクダミ茶。今日はカメムシになった気分だ。いや、カメムシもドクダミなんて食べないかもしれないけど。
 目の前の一人掛けソファに深く腰を下ろしたリーダーは、重々しく口を開いた。

「戦争です」
「……はい?」
「戦が始まっています」
「一体どこで?」
「今、この時、この国で勃発しているのです」
「………はぁ?」

 これまたいきなり突飛なことを言い始めたなぁ……。

「あなたが目撃したハトの死骸。アレは、宣戦布告だったのです」
「宣戦布告?」
「そうです」
 
 リーダーは深く、ゆっくりと頷いた。

「大変に遅らばせになってしまいましたが、私はそれに思い至りました」
「そう……なんですね」
「機械化されているのは、ハトだけではないのです。カラスもそうだったのです」
「えっ! てことは……」
「つまり、『ハトはカラスに攻撃された』のです」

 いや、それは「そのまんま」では……。心に浮かんだ突っ込みをゴクリと飲み下す。

「我々は、その勝者に支配される運命にあるのです。ひとまず、我々の敵は、カラスを操っている者です。多分、きっと、その者は政府よりも質が悪いモノと思われるからです」
「ええっ!」

 次は観察対象をカラスにせよということなのか?
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登場人物紹介

アイン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。

軌道上に停泊している宇宙船から、地球の様子を撮影して動画配信している。

地上活動をする時は、義体と呼ばれる地球人を模したアバターと同期する。

オゼンと行動を共にする前は、争いごとの仲裁をするネゴシエイターを生業としていた。

人当たりがよく陽気な性格。自分を受け入れてくれたオゼンが大好き。


相馬瞳(そうまあきら)

アインが同期するアバター。

身長167㎝。男性。

「草食系男子」の設定。

オゼン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。アインよりも年長で、体高が2mほどある。

アインからの提案で、フリゲート艦であった宇宙船を基地局に改造して動画配信している。

義体との体格ラグが苦手で、地上活動をするのは得意ではない。

かつては武器製造業を生業としていたが、職種変えした過去を持つ。

アインの声に惚れて自艦に引き入れたものの、思いの外若かったので微妙に距離を取りたい……。


空知聖(そらちさとる)

オゼンが同期するアバター。

身長195㎝。男性。筋肉質。

義体との体格ラグを少なくするために、アインが発注して高身長のアバターを作ってもらった。

木崎麗(きざき うらら)


アラサー独身。東雲綜合警備保障の広報課勤務。

かつては世界大会で名を馳せたアマチュア格闘家。

177㎝、78㎏超級で活躍していた剛健なイメージから、

現役時代は社のイメージキャラクターを勤めていた。

もっか婚活中だが、格闘家のイメージが強すぎて上手くいかないのが悩み。

柴田正樹(しばた まさき)


28歳。独身。

激務に疲弊して退職し、失業保険と貯金の切り崩しとで生活している。

今後の身の振り方に迷っている最中、とある不思議現象に遭遇してしまい

陰謀論者団体の片棒を担ぐことになる。

本人は慎重なつもりだが、簡単にコロリと説得されてしまう素直な性格。


パイ


アイン、オゼンと同じ星系人。義体などのアバター製造を得意とする。

タワーマンションの上階ワンフロアを買い上げて、外星系人のための義体レンタル業をしている。


遠州律子(えんしゅう りつこ)

パイが同期するアバター。筋骨隆々のガタイの良いオカマ。

外星系人向け会員制ラウンジ『夜間飛行(ヴォル・ドゥ・ニュイ)』のママ。

「宇宙人生活相談」的なこともしている。

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