5-side2
文字数 1,079文字
待ち合わせの最寄り駅改札に行ったら、アキラくんが先に来て待っていた。ダボッとしたパーカーのフードにうさ耳が付いているのに気が付いて思わず緩む口元を押える。可愛すぎだろ、それは。
「ごめんなさい。急に呼び出しちゃって」
顔の前でパンと手を合わせると、アキラくんは深々と頭を下げた。
「律子さんにヘルプ頼まれたんだけど、あんなとこ一人で行ったらオレ絶対喰われちゃうから。同伴お願いします」
ええ? そういうこと? 私は呆れてアキラくんの後頭部を見下ろした。
「いいけど……」
「お代はオレが出すから、ね?」
「お代って……。律子さんて人、良い着物着るようなところにお勤めなんでしょ?」
「うん。会員制のラウンジだって」
「か、会員制………?」
「オレの日当、まるっとウララさんが呑んでいいから」
「えええ」
協力するって言ったけど、その条件はどうなんだろう。迷っていると、アキラくんは瞳をウルウルさせて見上げてきた。
「ダメ……かな」
うっわぁ……それは反則だわ。オッサンが女の子の涙に弱いわけが痛いほどわかる。
「そこまで言われちゃ、付き合うしかないでしょ。いいわ。引き受けたわ」
「わぁ! ウララさんありがとう!」
目をキラッキラさせたアキラくんが跳び付いてきた。
「わかったから! わかったから抱きつかないで! 恥ずかしい!」
律子さんの店は繁華街の一等地、ビルの最上階にあった。薄暗くて細い廊下の奥、一見さんは寄りつけないようなエレベーター前に、いかつい黒服が立っている。アキラくんが近寄って何事か話すと頷いてエレベーターを操作した。
「律子さんのお店って……」
「『
一緒にエレベーターの籠に乗り込みながらアキラくんがニコッと笑って見上げてきた。
「知ってるわ。有名なお話だもの。サン=テグジュペリでしょ?」
「その人が書いた小説のタイトルなんだって律子さんが言ってました。『困難な状況から生まれる尊厳と勇気』が、その小説のテーマなんだそうですよ」
「ふうん。確か、香水にも同じ名前を冠したものがあったような気がするわ」
エレベーターが止まった。最上階に着いたのだ。
扉が開くとそこには、一面の夜空が広がっていた。