楽屋
文字数 1,416文字
部屋に戻ると、パイが台所を片付け終えたところだった。
「ただいまー」
「お疲れ様。ウララちゃん、楽しんでくれたようでよかったわ」
「んー、これって前払いみたいなもんだからな。後で『あれじゃ安すぎる』って文句言われたらどうしよう」
「ま、その時はその時でしょ」
パイはそう言うと、リビングのソファに座った。
「んで、シムーちゃんは何だって?」
「あ、ああ」
オレは耳に仕込んでいたフォーカスを外す。先程ウララさんからもらったチップが差し込んである。出力を上げて、投影モードに切り替えた。
(あーあーえー、ダイジョブかな? 映ってる?)
手の平に乗るサイズのシムーさんの映像がサイドテーブルの上に立ち上がる。忙しなく行ったり来たりしていたが、やがて立ち止まって軽く咳払いした。
(あー……ウォホン。なんだな……ウララ君との時間を楽しんだかね? いや、スーツだと無粋かなと思ったので、カワイイ格好をして行くようにと思ってアドバイスしたんだが、ハハハ。余計なお世話だったかな?)
パイとオレは呆れて顔を見合わせた。なんだこれ。
(えー、今現在シェルターに居る者たちだが、幸いと星間戦争に繋がるような人物はいない。よかったな。キミが話してくれた相手の特徴から見当をつけたのだが、ここ最近で移送予定の
とある
星系のVIPがいる。もしかするとその方の潜伏を嗅ぎつけられたのかもしれない。近日中に移送予定であったが、予定を早めるように各所に連絡をとっているところだ)ちっこいシムーさんは、大袈裟な身振り手振りをしながらテーブルの上を行ったり来たりする。
(VIP関係者が『大使館』と渡りをつけるためにオフィス街と往復していたところから見つかった可能性が高い。要は、VIPの護衛は面が割れてしまっている)
くるりとターンして、位置的にはパイに向かってビシッと指を指したシムーさんは
勿体を付けて重々しく言った。
(よって、場合によってはキミたちに移送を手伝ってもらうかもしれない。大丈夫だ。キミのバディに選んだウララ君は元格闘家で頼りになる。相手も身バレを恐れて大立ち回りはしないはずだ。多分)
最後の一言は余計だ。つか、「相手は派手に暴れない」のはあくまで理想で希望的観測なんかい。
(護衛対象となるVIPとは面つなぎができるように図らおう。それまでバディであるウララ君と親交を深めていてくれたまえ)
シムーさんは意味も無くジャケットの衿を整えて軽くフッと息を吐くと、意味深な流し目をパイに向けた。オレ、そっちに座ってなくてよかった。
(では、次の連絡は追ってまた)
二本指を立てて気障ったらしく挨拶をすると、シムーさんの映像は消えた。
「面白いオッサンだな」
素直に感想を述べる。
「面白がってもいられないわよ。護衛を頼むって? こっちは素人ヨ? シムーちゃんったら何言っちゃってんの?」
パイは鼻息も荒く憤慨している。
まー、そうだけど、配信ネタとしては強い展開になりそうだ。
「ところで、ここにたまってんのはどうすんの?」
オレは自分の腹のあたりをなでた。義体は食べ物を消化するようにはできていない。口から入ったものは、まるっと腹部のタンクに溜まる仕組みだ。
パイは振り返って面倒くさそうに言った。
「あー、アンタの
中身
が抜けた後、中を抜いて洗っとくわ」「ふうん」
あんま見たくない光景だなぁ。義体のメンテも大変ってことだ。