2-side1

文字数 1,231文字

「オゼン、聞こえてるか?」
「うぃ……す。な…ん…い、アイン」
「近況報告だ。つか、ずいぶん音声がぼやけるな。座標変えたか?」
「いや……変えて…な…」
「………」

 オレはイヤホン型通信デバイスを外して舌打ちした。先程からオレは、高等生物と下等生物の組み合わせの趣味の悪いマークを掲げた燃料スタンドと思しき店に入り、適当に指さしたら出てきた黒い汁の入った容器を持って窓際の席に陣取っていた。パイに持たされたスマホで決済方法は教わっていたので買い物は支障がない。隣の席に置いていたバッグからタブレット端末を取り出し、起動する。

(どうやら強い信号を出す機械がオレ等の電波をマスキングしているらしい)

 オゼンの声が聞き取りにくいのも、そのためだ。まどろっこしいので通信をチャットに切り替えた。多少ラグはあるが、聞き取りづらくて齟齬が生じることは無い。

(それらしき信号はキャッチできないな。出力を上げて範囲を限定したタイプかもしれん。不具合はそのためか?)

 ややタイムラグを挟んで……多分サーチ後、オゼンは返答をくれた。

(きっとそうだ。地上なら大体のギミックからモニタ出来る。今、その強力な信号の出所を洗っている。そいつも移動してる。軌道からするに、そいつも飛翔体だ)
(ほかの配信者か?)
(いや。違うと思う。で、72機撒いた情報収集ギミックのうち、4機が死んでた。どれも同一範囲に放したヤツだ。強い信号を出す飛翔体を発見した地域)

 うー。義体には片手5本しか指が無いんだった。やりにくくてしょうがない。平面の入力デバイスってのも非効率的だ。球状デバイスならほぼ会話と同速度に返せるのに。

(一応同業に確認してみる。オレらの配信ポイントだって周知されてるから黙って割り込んでくる奴なんていないと思うけどな。一番考えられるのは、信号を出しているのが地上のヤツの可能性だ)
(この星の高等生物か)

 まぁ、ここんとこ技術進歩は目覚ましいし、可能性がないとは言い切れない。でもこれは、パイに聞いた無人偵察機のようなものとは違う感じだ。オレらと同じく、生体に内蔵しているっぽい。やり口は同業に近い。

(ああ、それと、地上でこんなことしてるヤツがいる)
 
 オレは、さっき駅前の公園でハトを監視していた高等生物からもらった紙切れをスキャンしたものをオゼンに送った。しばらくの間。多分、翻訳機に通している。

(バレたのか?)

 ようやっと返事が戻ってきた。

(いや。そういうわけでもなさそうだ。話を聞くに、微妙にピントがずれてんだわ。それに、ギミックを故障させたのがなんだかわかった。KARASUだ)
(HATOと並んで候補に挙げてた飛翔体か)
(そうだ。高等生物の忌避感が強いから候補から除外したヤツ。どうやらもともとの習性からHATOを突き殺すらしい。でも、まぁとにかく信号の出所を探すよ。対策はそれから考えよう)
(承知した。気を付けて)

 オゼンの優しい声を脳内再生した。あー、早く同期を切って上に戻りたい。
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登場人物紹介

アイン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。

軌道上に停泊している宇宙船から、地球の様子を撮影して動画配信している。

地上活動をする時は、義体と呼ばれる地球人を模したアバターと同期する。

オゼンと行動を共にする前は、争いごとの仲裁をするネゴシエイターを生業としていた。

人当たりがよく陽気な性格。自分を受け入れてくれたオゼンが大好き。


相馬瞳(そうまあきら)

アインが同期するアバター。

身長167㎝。男性。

「草食系男子」の設定。

オゼン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。アインよりも年長で、体高が2mほどある。

アインからの提案で、フリゲート艦であった宇宙船を基地局に改造して動画配信している。

義体との体格ラグが苦手で、地上活動をするのは得意ではない。

かつては武器製造業を生業としていたが、職種変えした過去を持つ。

アインの声に惚れて自艦に引き入れたものの、思いの外若かったので微妙に距離を取りたい……。


空知聖(そらちさとる)

オゼンが同期するアバター。

身長195㎝。男性。筋肉質。

義体との体格ラグを少なくするために、アインが発注して高身長のアバターを作ってもらった。

木崎麗(きざき うらら)


アラサー独身。東雲綜合警備保障の広報課勤務。

かつては世界大会で名を馳せたアマチュア格闘家。

177㎝、78㎏超級で活躍していた剛健なイメージから、

現役時代は社のイメージキャラクターを勤めていた。

もっか婚活中だが、格闘家のイメージが強すぎて上手くいかないのが悩み。

柴田正樹(しばた まさき)


28歳。独身。

激務に疲弊して退職し、失業保険と貯金の切り崩しとで生活している。

今後の身の振り方に迷っている最中、とある不思議現象に遭遇してしまい

陰謀論者団体の片棒を担ぐことになる。

本人は慎重なつもりだが、簡単にコロリと説得されてしまう素直な性格。


パイ


アイン、オゼンと同じ星系人。義体などのアバター製造を得意とする。

タワーマンションの上階ワンフロアを買い上げて、外星系人のための義体レンタル業をしている。


遠州律子(えんしゅう りつこ)

パイが同期するアバター。筋骨隆々のガタイの良いオカマ。

外星系人向け会員制ラウンジ『夜間飛行(ヴォル・ドゥ・ニュイ)』のママ。

「宇宙人生活相談」的なこともしている。

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