5-side1

文字数 1,401文字

 パイのマンションの一室。やっぱり例の義体のアクセスキーを振り分けられたオレは、半ば不貞腐れ気味に、ケースの中から上機嫌のパイを見上げた。

「また、コイツかよ」
「あら、気に入らなかった?」
「何のかんの言って、目立つんだぜ? コイツ」
「それは義体のせいじゃなくて、アンタの立ち回りのせいよ」
「そらまー、にっこり笑ってやると大抵のことは許されるから便利っちゃぁ便利だけどよ。多少グイグイ行ってもへーきだし」
「そんだけ金かけて作ったからね。そのスキンだけでも芸術品の領域なんだから大事に使いなさいよ」

 芸術品、ねぇ……。起き上がったオレは自分の義体を舐めるように見回した。まぁ、整っていることは認めよう。今のところまだオプションで盛られているらしいバランス制御と機動力は使ったことないが、ある意味このスキンを守るための機能なのかもしれない。

「ところで、事前に相談した件だけど……」
「ええ、そのことね。まずは服着てから話しましょう」

 パイはこちらへポイポイと服を投げつけた。

「アンタをネタにした配信ってことについてはOKよ。ソレを見せびらかせるんだったら、私の仕事の宣伝にもなるし。ただねぇ……」

 立ち止まってシナを作ったパイは、指先で顎を触りながらこちらに流し目をくれた。

「アンタたちの仕事を配信するのは、用心が必要だわ」
「どういうことだよ」

 オレは広げたパーカーのフードにウサギの耳が付いているのを見てげんなりした。

「これ、ちょっと、やべーじゃん。マジイカレテやがる」
「ギャップ萌えね」
「は?」
「カワイイ顔して、中身は……ってやつ」
「ふん。外ではボロをださねーよ」

 やっぱ、オーバーサイズなんだな。オレは立ち上がってケースから出た。

「私がなんでこんなとこに住めているか、考えたことある?」

 パイが珍しくクソ真面目に訊いてきた。

「義体提供で荒稼ぎしてんじゃないのか?」

 オレの答えをパイは鼻で笑った。

「自分の贅沢のためにお金をもらってるんじゃないわよぉ。ここはシェルターでもあるの。実のところ、アンタたちが思っている以上にこの星には外部星系の民が入り込んでいるわ。些末なことはもみ消せるように、この星の上部階層にも外部星系人が存在する」
「それは、秘匿事項ってことか。でも、この星の高等生物がオレ等の配信を見るわけじゃないだろ?」
「鈍いわねぇ。シェルターって言ったでしょ? この星の高等生物は私たちのことを知らないがゆえに完全中立なのよ。ここは非戦闘地域。解る?」
「なるほど。星間難民や亡命者がいるってことか」
「なんか、キナ臭い感じがするのよねー。このマンションに隠れている誰かをあぶり出そうとしてるんじゃないかって」
「KARASUがか? ここにはそんなに重要人物が隠れてるのか?」
「秘密ー」

 パイは指でバッテンを作った。うーん。でも、有料チャンネル収益が無いと義体のレンタル料が払えないから、目玉になるコンテンツは欲しい。

「わかった。まず、パイに判断してもらってから、OKをもらったデータをオゼンに渡せばいいんだな」
「ま、そういうことね。パンチが欲しけりゃ私の店の取材してもいいわよ」
「待てよ。パイの店にこの成りで行ったらおもちゃにされるって言ってなかったか?」
「それこそ、身体をはってネタになるってことでしょうよ」

 パイは腕を組んでふんぞり返った。
 えー。オゼンは面白がりそうだけどよ。……オレが死にそー。
 
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登場人物紹介

アイン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。

軌道上に停泊している宇宙船から、地球の様子を撮影して動画配信している。

地上活動をする時は、義体と呼ばれる地球人を模したアバターと同期する。

オゼンと行動を共にする前は、争いごとの仲裁をするネゴシエイターを生業としていた。

人当たりがよく陽気な性格。自分を受け入れてくれたオゼンが大好き。


相馬瞳(そうまあきら)

アインが同期するアバター。

身長167㎝。男性。

「草食系男子」の設定。

オゼン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。アインよりも年長で、体高が2mほどある。

アインからの提案で、フリゲート艦であった宇宙船を基地局に改造して動画配信している。

義体との体格ラグが苦手で、地上活動をするのは得意ではない。

かつては武器製造業を生業としていたが、職種変えした過去を持つ。

アインの声に惚れて自艦に引き入れたものの、思いの外若かったので微妙に距離を取りたい……。


空知聖(そらちさとる)

オゼンが同期するアバター。

身長195㎝。男性。筋肉質。

義体との体格ラグを少なくするために、アインが発注して高身長のアバターを作ってもらった。

木崎麗(きざき うらら)


アラサー独身。東雲綜合警備保障の広報課勤務。

かつては世界大会で名を馳せたアマチュア格闘家。

177㎝、78㎏超級で活躍していた剛健なイメージから、

現役時代は社のイメージキャラクターを勤めていた。

もっか婚活中だが、格闘家のイメージが強すぎて上手くいかないのが悩み。

柴田正樹(しばた まさき)


28歳。独身。

激務に疲弊して退職し、失業保険と貯金の切り崩しとで生活している。

今後の身の振り方に迷っている最中、とある不思議現象に遭遇してしまい

陰謀論者団体の片棒を担ぐことになる。

本人は慎重なつもりだが、簡単にコロリと説得されてしまう素直な性格。


パイ


アイン、オゼンと同じ星系人。義体などのアバター製造を得意とする。

タワーマンションの上階ワンフロアを買い上げて、外星系人のための義体レンタル業をしている。


遠州律子(えんしゅう りつこ)

パイが同期するアバター。筋骨隆々のガタイの良いオカマ。

外星系人向け会員制ラウンジ『夜間飛行(ヴォル・ドゥ・ニュイ)』のママ。

「宇宙人生活相談」的なこともしている。

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