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文字数 1,497文字
いや、私の行動も大概な自覚はあったけど、えっと、アレは何? 律子さんって女装してお姐言葉使ってるから「オカマ」さんだと思ってたけど、性的嗜好はヘテロなのかしら。それとも両刀使いとか? そんでもって、えっと、……あれなの? 高層マンション内で渦巻くソープオペラ的展開? 超高級マンション最上階の有閑マダムと会員制ラウンジのママでオカマさんとの目くるめく何とやら? いやいや……情報量が大渋滞よ。
頭の中が大混乱したまま、マンション前の児童公園まで来た。ベンチに座って溜息をつく。アキラくん、どこ行っちゃったのかしら。
その時、植え込みからにゅっとアンテナが生えてきて、目を瞬いた。何アレ。
続いて植え込みから頭を出したのは……、あれ、何か見覚えのある人だわ。
「柴田さん?」
不審者とわかっていながら思わず声を掛けてしまった。アンテナを持った人物はこちらをくるりと向いた。
「む……あなたは、東雲綜合警備保障の木崎麗さん」
「ええ、はい」
もとイメージキャラクタの辛いところで、大抵の人が私のことを知っている。
「何をしているんですか?」
アンテナ片手に近付いてきた柴田さんは意外なことを聞いてきた。それはこっちのセリフだわ。そのアンテナは一体何なのかしら?
「そちらこそ、その大きなアンテナは何ですか?」
「ああ、これ……」
柴田さんは、自分の持っているものが場違いで奇妙なものだということに初めて気づいたような顔をした。やっぱりこのヒト、ちょっとズレてるわ。
「アキラくんを見なくなってから、信号を出すカラスが居なくなったんですよ」
あ、……そういえばこの人、ハトがどうのって言ってて、アキラくんのこと敵視してたはず? 私は眉間に皺を寄せた。
「あなた、以前、アキラくんは悪の手先みたいなこと、言ってませんでした?」
「いえ。私は彼の協力者でした」
―― 今の電話、柴田さんから。
あれ? そっか。先日、アキラくんそんなことを言ってたような……。
ええっと、てことはいつの間にかアキラくん、このヒトを懐柔していたってこと?
「彼は、悪の組織には加担していないと思っていたのですが、彼が居なくなってからこの状態ということは、やはり彼は関係していたとみる方が……」
アンテナの先を真剣な顔で見つめる柴田さん。いや、関係していたけど悪の組織ってわけでは無くて、その……。
「それは、EMPのせいなんです」
「EMP?」
柴田さんが目の色を変えてこちらを見た。実は私もよく解ってないので、説明が難しい。
「惑星軌道上からカラスの群れにEMPを当てたから、人を襲うカラスに搭載されていた精密部品は故障したってことらしいです」
「……それは、東雲の技術ですか?」
柴田さんは食い気味に迫ってくる。
その瞳に狂気は感じられず、純粋に「好奇心」という感じだったので、私はペロッと喋ってしまった。
「そんなわけないじゃないですか。アキラくんですよ」
柴田さんは目を剥いた。
「木崎さん。EMPがどういうものだかご存知ですか?」
「一時的に電磁エネルギーをバーストさせて、非破壊的に電気機器や精密機器を破壊したり誤作動させたりするものですよね」
「そうです。かつて大規模な太陽フレアが地球にまで及んで各種被害を起こしたことが知られています。海外では兵器として核を使ったEMP爆弾の開発が進んでいるそうです。高高度核爆発を利用した非破壊兵器です。しかし、それはまだ精度も効果も理論値の域を出ないと言われています」
「はぁ……」
私はキョトンとして返事をした。半分くらいしか分からない。
「アキラくんは、ナニモノなんですか?」