夜間飛行
文字数 891文字
開店したと同時くらいに、「目黒義和」の義体を被ったアインが入店してきた。どうやら報告があるらしい。ボックス席に座って早々、昼の顛末を語った。
「マジで胆冷えたぁ」
二の腕をさすって怖気を振るっているオッサンに片足突っ込んだ青年。
自分で作った義体だけど、やっぱちょっと微妙だわねー。
アタシは、アインのはす向かいに座ってしみじみと思った。精神年齢と肉体年齢ってのがあって、アインの場合はやっぱり若い子に入れといたほうが無難だわ。いや、まぁアインもそれなりの役者ではあるんだけど、素になった時の違和感がね。
「虫の方は、アンタを覚えてたってわけね」
「え? 虫?」
眉間に皺を寄せて顔をあげる「目黒さん」。
「すっかり忘れるアンタの記憶力に脱帽よ。ところでウララちゃんには?」
「バレてない……と思う。でも、あんま義体をとっかえひっかえするとオレが混乱するからボロ出ちゃうかも……」
「ふむ」
アタシは腕を組んだ。スキンから漂う香りで足が付くとは思わなかったわ。まぁ、結論としては、どの義体にしたところでアインの場合は何か釣れるってこと。これについては「女の子」の義体にしたところでおんなじことなんだろうと思う。
「あの時貸した義体は後3体あるんだけど、そっちではヘンなのを釣ってないでしょうねぇ」
「えー……」
茫然とした顔でこちらを見返す「目黒さん」。
「……覚えてない」
おおっとぉ……。
アタシも自分の美的感覚の範囲内でそこそこ整った容姿の義体を作ってる自覚はあるけど、アインだけよ? 貸した後こんなにめんどくさいことになるの。
「高等生物から恋愛対象にされるって、結構面倒くさいんだなぁ」
「他人事じゃないでしょ! あーた!」
ウララちゃんなんて、家に乗り込んできちゃってるしね。
「こうなったら仕事のスピードあげなきゃだわ。店休んでオーバーホールを早々に終わらせて、オゼンの義体にかかるわよっ」
「やったー!」
目をキラキラさせて「目黒さん」が立ち上がった。
「やっ、やめてアイン! オッサンくさい顔でキュートに跳ねないで! キモイ!」
こういうギャップは勘弁だわ。