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文字数 1,047文字
「そういえば、オレが柴田さんちに行ったとき、先客がいたんです」
「ほう……」
シムーさんは水割りのグラスを揺らしながら、応じた。
「水色の作業着を来た二人組で、KARASUの存在を認識する前だったからそんなに注意も向けていなかったんですが、今思うと、ちょっと妙なんですよね」
普通、作業着には所在を明らかにするマークなどが入っているはずなのに、一切そういうのは無かった気がする。ストラップも名札も身に付けていなかった。そんなに長くやり取りを聞いていたわけじゃなかったけど、ハトの巣がどうこうって言っていた。
「キャップを深く被っていたので、顔まで確認しなかったんですが、……オレの見間違いで無ければ
耳が無かった
……。いや、見えなかったのかな?」「ふむ。相手の身体的特徴として心に止めておこう」
口元に琥珀色の液体を持っていったシムーさんの横顔を見て、このヒトは義体なのか本体なのかと思いをはせる。そもそも、ソレ呑んで酔えるのか? いや、それがアルコールだなんて誰が言った? 匂いは酒を模したものでも全く別の液体の可能性もある。
「アインくん? それとも、さん? なのか?」
「敬称なんてどうでもいいですよ」
「じゃぁ、アイン……は、配信業は長いのか? 私は、最近になってからキミらを捕捉したのでな」
「ここの星の軌道上に来たのは最近です」
「ああ、それでか。NEKOの頃からのファンだ」
「それはありがとうございます」
オレ等はその星の生命体をつぶさに観察して、コイツにモニタを搭載したら面白いだろうなってイキモノにカメラを内蔵する。ここの星に来て最初にモニタを搭載したのがNEKOだ。愛玩動物として高等生物の生活に見事にはまり込んでいるので、ネタ集めに事欠かなかった。むしろ、NEKO側から積極的に高等生物にアプローチしても疑われないので、ターゲットに決めた高等生物の懐に入り込むのも楽だった。チャンネル登録数も編集ネタもウナギ上りのコンテンツになった。
それを足がかりに、次のモニタ搭載生命体にハトを選び新たなコンテンツを開発したのは、NEKOではカバーできない魅力的な観察対象を見つけたからだ。シムーさんだけではない。それは、オレ等にとっても癒しの対象だった。
それにしても、入れ込みすぎじゃねぇのか?
さっきの、シムーさんの目の色の変わりっぷり。やっぱ、このヒトも寂しいんかな。オレは頬杖をつくと、美味そうに溜息を付いているシムーさんを見つめた。