文字数 842文字

 来ちゃった。

 私は、律子さんちに押しかけていた。
 あの時以降、アキラくんの姿を見かけなくなった。ハトの血だらけのままのアキラくんとマンションの前で別れて、お疲れ様って言って、それっきり。交換した連絡先もなしのつぶてだし……。社長もなんだか私を避けているよう気がする。こうなったら、アキラくんと一緒に住んでいる律子さんに、直接アキラくんの様子を聞いた方が早い。そう思ったのだ。

「ここんとこ仕事が押しててね。ゆっくり買い物に行く暇もないのよ。お紅茶くらいしか出せないけど、ごめんなさいね」
 律子さんはいつものように柔らかい物腰て、香り高いアールグレーのカップを持ってきた。

「ところで、お話って何かしら」
 向かいに腰かけた律子さんが首を傾げた。私が来て、用件が解らないってことは無いんじゃないでしょうかね。腹の中で毒づきながら、私はにっこり微笑んだ。
「最近、アキラくんに会わないんですけど。どうしたんですか?」
「ああ、あの子。帰ったわよ」
「え?」
「仕事終わったから、帰ったわ」
 律子さんは当然でしょ、という顔でこちらを見る。
 
 え? そんな……急に?
「帰るって……」
 私に、何も言わずに? あんなに落ち込んで、暗い表情で、黙っていなくなるなんてそんな……。
 私は席を立った。律子さんは驚いて私を見上げた。くるりと振り返って廊下へ戻る。

「あら、ウララちゃん! ウララちゃんってば!」
 律子さんが追いかけてくるのも構わず目につく扉を全部開けていく。
「アキラくん? アキラくん? 居ないの?」
 失礼は承知だけど、そうでもしないともう、アキラくんには会えない気がした。律子さんが嘘をついているとも思えなかったけど、本当に私に黙ってどこかに帰ってしまったとは思いたくなかった。

 突き当りの扉のノブに手を掛けると、後ろで律子さんが、ああっ! そこは! と声を上げた。でも、私は止まらなかった。
 開いた部屋は、ベッドルーム? 白いシーツを纏って、裸同然の姿で寝そべっていたのは、あの最上階の女性だった。
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登場人物紹介

アイン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。

軌道上に停泊している宇宙船から、地球の様子を撮影して動画配信している。

地上活動をする時は、義体と呼ばれる地球人を模したアバターと同期する。

オゼンと行動を共にする前は、争いごとの仲裁をするネゴシエイターを生業としていた。

人当たりがよく陽気な性格。自分を受け入れてくれたオゼンが大好き。


相馬瞳(そうまあきら)

アインが同期するアバター。

身長167㎝。男性。

「草食系男子」の設定。

オゼン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。アインよりも年長で、体高が2mほどある。

アインからの提案で、フリゲート艦であった宇宙船を基地局に改造して動画配信している。

義体との体格ラグが苦手で、地上活動をするのは得意ではない。

かつては武器製造業を生業としていたが、職種変えした過去を持つ。

アインの声に惚れて自艦に引き入れたものの、思いの外若かったので微妙に距離を取りたい……。


空知聖(そらちさとる)

オゼンが同期するアバター。

身長195㎝。男性。筋肉質。

義体との体格ラグを少なくするために、アインが発注して高身長のアバターを作ってもらった。

木崎麗(きざき うらら)


アラサー独身。東雲綜合警備保障の広報課勤務。

かつては世界大会で名を馳せたアマチュア格闘家。

177㎝、78㎏超級で活躍していた剛健なイメージから、

現役時代は社のイメージキャラクターを勤めていた。

もっか婚活中だが、格闘家のイメージが強すぎて上手くいかないのが悩み。

柴田正樹(しばた まさき)


28歳。独身。

激務に疲弊して退職し、失業保険と貯金の切り崩しとで生活している。

今後の身の振り方に迷っている最中、とある不思議現象に遭遇してしまい

陰謀論者団体の片棒を担ぐことになる。

本人は慎重なつもりだが、簡単にコロリと説得されてしまう素直な性格。


パイ


アイン、オゼンと同じ星系人。義体などのアバター製造を得意とする。

タワーマンションの上階ワンフロアを買い上げて、外星系人のための義体レンタル業をしている。


遠州律子(えんしゅう りつこ)

パイが同期するアバター。筋骨隆々のガタイの良いオカマ。

外星系人向け会員制ラウンジ『夜間飛行(ヴォル・ドゥ・ニュイ)』のママ。

「宇宙人生活相談」的なこともしている。

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