4-side1

文字数 1,109文字

「はあー、疲れたぁ」

 やっと戻ってきた軌道上の居住空間で、オレは腕や足を伸ばして一息ついた。身体形状の違う義体に同期して活動するのはやはりメチャクチャ疲れる。音声伝達装置のスイッチを入れて、さっそくオゼンに呼びかけた。

「戻ってきたぞー」
「おう。お疲れさん」

 聞きなれたオゼンの声にホッとする。

「地上のHATOから直接回収してきたデータをそっちに送るわ」

 球状デバイスを引き寄せて6本の両手指で抱え込むようにして入力を開始する。

「どうやら、オレ等の電波を妨害していたのは,KARASUに搭載されている強力な信号らしい。ユニットは少なくとも3体いる。1体は巡回範囲を把握した。なんの偶然かパイの本拠地周辺だ」
「こっちも同業に当たってみた。やはり同業の仕業ではないらしいが、ちと妙な話を小耳に挟んだ。そのユニットを使ってるのは高等生物じゃない。オレ等と異星系のヤツらしい」
「異星系? 配信者じゃないとすれば、何なんだ、ソイツ」
「この星の全く別地域をモニタしているヤツから聞いたんだが、KARASUを使ってビーコンを付けた任意の人物を監視するシステムというのがあるらしい。もともと、KARASUの視認識別能力を利用したものらしいんだが、ソイツの話だと特定の人物の行動パターンを洗いだすために利用されるんだと」
「なるほど。KARASUが人の顔を覚える能力を使ったんだな」

 とすると、ユニットがカバーしていた範囲が、居住棟、移動車両のステーション、仕事場(オフィス街)だった意味が解る。一体、誰が? 誰の?

「もしそうだとするなら、ますますKARASUを排除できないじゃないか。まぁ、直接下りればデータを回収できるが、そのためにいちいち義体を調達していたらコストがかかりすぎる。いつまでそのKARASUを使った監視を続けてるのか分からないしな」
「ふん。オレらだって霞を喰ってるわけじゃないからな。そこで、一つ提案なんだが、アインが問題解決する過程を配信するっての、どうだ?」
「オレが? 自らネタになるのか?」
「嫌か? どうせ義体なんだろ? お前が直接画面に出るわけじゃないし」
「……そりゃぁそうだけど」
「編集したデータはアインに確認を取ってから配信するからさ」
「うーん。オレ、視聴率の取れるネタになれるかなぁ」
「そこはオレの腕の見せ所さ。心配しなさんな」
「まぁ、オゼンがそういうなら」

 データ転送が終了した。

「ねぇ、そっち行っていいか?」
「なんだよ、アイン」
「下に行って疲れたんだぞ。ちっとはオレのこと労えよ」
「ンだよ……急にデレやがって」

 オゼンの含み笑い。甘えられるの、まんざらでもないくせに。
 オレは、球状デバイスを押しのけると席を立った。
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登場人物紹介

アイン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。

軌道上に停泊している宇宙船から、地球の様子を撮影して動画配信している。

地上活動をする時は、義体と呼ばれる地球人を模したアバターと同期する。

オゼンと行動を共にする前は、争いごとの仲裁をするネゴシエイターを生業としていた。

人当たりがよく陽気な性格。自分を受け入れてくれたオゼンが大好き。


相馬瞳(そうまあきら)

アインが同期するアバター。

身長167㎝。男性。

「草食系男子」の設定。

オゼン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。アインよりも年長で、体高が2mほどある。

アインからの提案で、フリゲート艦であった宇宙船を基地局に改造して動画配信している。

義体との体格ラグが苦手で、地上活動をするのは得意ではない。

かつては武器製造業を生業としていたが、職種変えした過去を持つ。

アインの声に惚れて自艦に引き入れたものの、思いの外若かったので微妙に距離を取りたい……。


空知聖(そらちさとる)

オゼンが同期するアバター。

身長195㎝。男性。筋肉質。

義体との体格ラグを少なくするために、アインが発注して高身長のアバターを作ってもらった。

木崎麗(きざき うらら)


アラサー独身。東雲綜合警備保障の広報課勤務。

かつては世界大会で名を馳せたアマチュア格闘家。

177㎝、78㎏超級で活躍していた剛健なイメージから、

現役時代は社のイメージキャラクターを勤めていた。

もっか婚活中だが、格闘家のイメージが強すぎて上手くいかないのが悩み。

柴田正樹(しばた まさき)


28歳。独身。

激務に疲弊して退職し、失業保険と貯金の切り崩しとで生活している。

今後の身の振り方に迷っている最中、とある不思議現象に遭遇してしまい

陰謀論者団体の片棒を担ぐことになる。

本人は慎重なつもりだが、簡単にコロリと説得されてしまう素直な性格。


パイ


アイン、オゼンと同じ星系人。義体などのアバター製造を得意とする。

タワーマンションの上階ワンフロアを買い上げて、外星系人のための義体レンタル業をしている。


遠州律子(えんしゅう りつこ)

パイが同期するアバター。筋骨隆々のガタイの良いオカマ。

外星系人向け会員制ラウンジ『夜間飛行(ヴォル・ドゥ・ニュイ)』のママ。

「宇宙人生活相談」的なこともしている。

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