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文字数 929文字
アキラくんたちの部屋は、最上階ではないけど結構上の方の階。エレベーター前にはもう一枚ドアがあって、そこは虹彩認証で入れるシステムだった。本当に、セキュリティが厳重なのだ。一般住居としてどうなのかと思うのだけれど、ここはそれが売りなのよね。
「ウララちゃん、待ってたわよ」
律子さんはシルクのような落ち感のあるゆったりした部屋着を着て迎えてくれた。素顔に近い律子さんは、金髪短髪の普通のマッチョなお兄さん? だった。
通されたダイニングには人数分のテーブルセットが準備されている。アキラくんと二人っきりでなかったのは……ちょっと残念だったけど、律子さんの場の持たせ方はさすがと言うべきか、私は始終笑いながら心尽くしのディナーを楽しむことができた。
「あらぁ、ウララちゃんてば、フリーなんて勿体ないわぁ」
律子さんは心底残念そうに言いながら、食後のコーヒーを持ってきた。
「あの……ついこの間までは、付き合ってた人もいたんですけど、なんか価値観が合わなくて」
「価値観?」
私の言葉に、アキラくんはキョトンとしてこちらを見た。
「ああ、ええと、こちらに一方的に頼ってくるっていうか……。まぁ、私、こんな感じなんで『強そう』とか『甘えたい』とかいう対象になっちゃうみたいで。最初はこちらの都合に合わせてくれているのかなと思ったんだけど、結局、みんな押し付けて楽しているだけなんですよね。私自身が大事にされてるって思うこと、あまりなくて……」
「まぁ……可哀そうに。女子はみんな、自分のことを大切に思ってもらいたいものよ。そんな気持ちが分からない男なんて願い下げだわね」
向かいに座った律子さんが、頬杖をつきながら溜息を付いた。
「縁があって出会ったのなら……」
アキラくんがポツリと呟いた。
「このヒト、と思って大事にするのが普通だと思うんですけどね」
「アキラくん?」
「お互いがお互いを大切に思っているのなら、どちらか一方が辛い気持ちになることなんて無いと思うんですよ。オレなら、このヒトって思った人は放さないけどなぁ」
遠い目をしているアキラくんに、私の胸がキュンとなった。
アキラくんこそ、今、フリーなのかしら。