4-side2

文字数 1,265文字

 ふんん……はぁあ……。

 私はソファに座りクッションを抱きしめて深呼吸をした。何ていい匂いなの。傍から見たら充分変態の所業だが、今はそんなことどうでもいい。アキラくんが座って、抱きかかえていたクッションの移り香を胸いっぱい堪能する。やばいわ。この薫り。今まで射程範囲外だったけど、いいじゃない、年下の男の子も。

 いやいや……アキラくんは、全然そういう対象で私のことを見てるわけじゃないって、解ってるけどね。でも、……これまで付き合ってきた男性と違う。私を頼ろうとしたり、ご機嫌を窺ったりしない。私をちゃんと女性として扱ってくれて、さりげなく助けてくれる。……近所に住んでいるのかぁ。最近ここに来たのかしら。

 それにしても、一緒に住んでいるらしい化粧の濃いガタイのいい人、どう見ても堅気の人じゃなかったわ。身に付けていたモノからして高級そうな、水商売系の、それも「ママ」って感じ。声もちょっと野太かったし……。

 え? もしかして、アレ……。
「オカマ……さん?」

 私はクッションを抱きしめたまま固まった。ってことは、アキラくんて、オカマさんに囲われてる若いツバメ? えええええ……。現実離れした美少年っぷりも、スマートな人あしらいも、オカマさんに見出されて教育された賜物ってこと? いやいやいや……。

 あくまで私の妄想よ。妄想。うん。

 ソファに座って、アキラくんとおしゃべりしてた時のことを思い出す。

「ウララさんって、東雲(しののめ)綜合警備保障に勤めてらっしゃるんですね」
「広報課だけどね。以前は会社のイメージキャラクターだったの」
「へぇ。凄いなぁ。ウララさん、背が高くてスタイルいいですもんね」
 
 クッションを抱きかかえて、にっこり笑ったアキラくん。

 「背が高くてスタイルがいい」……そう言った。
 「ガッチリしてて頼りがいがありそう」「ガタイが良くて強そう」……そんなこと、言わなかった。
 イメージキャラクターだもの。そういうイメージを求められていたのだもの。その通りであってよかったのよ。でも、ホントは心の底では傷ついていたのかなぁ。女性にいう誉め言葉じゃないもんね。なんだろう。口では「男女平等」って言っているけど、やっぱりそれ相応に大事にしてもらいたいっていうか、そんな気持ちは……あったんだろうなぁ。

 ローテーブルに置いたスマホに視線を落とす。
 アキラくんと連絡先、交換しちゃったよ。どんな気持ちで、何を連絡すればいいんだろう。アキラくん、どういうつもりで私と連絡先を交換したんだろう。なんでこんなに私、年下の男の子に心を持って行かれちゃってるんだろう。ああ、柄にもなく「乙女」しちゃってるわ、私。もっと、こういう気持ちって、大人の男性に対して持つ感情だと思っていたのに意外だわ。

 ……ちょっと待って、ウララ。あんた、昨日、成人した大の大人を振ったばかりなのよ。それなのに、なんなのよ。こんな浮ついた気持で……。

 気を取り直して、両手でパンパンと両頬を叩く。
 そうよ。顔がいい。気が利く。年下。それだけのことじゃない。それだけの……。
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登場人物紹介

アイン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。

軌道上に停泊している宇宙船から、地球の様子を撮影して動画配信している。

地上活動をする時は、義体と呼ばれる地球人を模したアバターと同期する。

オゼンと行動を共にする前は、争いごとの仲裁をするネゴシエイターを生業としていた。

人当たりがよく陽気な性格。自分を受け入れてくれたオゼンが大好き。


相馬瞳(そうまあきら)

アインが同期するアバター。

身長167㎝。男性。

「草食系男子」の設定。

オゼン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。アインよりも年長で、体高が2mほどある。

アインからの提案で、フリゲート艦であった宇宙船を基地局に改造して動画配信している。

義体との体格ラグが苦手で、地上活動をするのは得意ではない。

かつては武器製造業を生業としていたが、職種変えした過去を持つ。

アインの声に惚れて自艦に引き入れたものの、思いの外若かったので微妙に距離を取りたい……。


空知聖(そらちさとる)

オゼンが同期するアバター。

身長195㎝。男性。筋肉質。

義体との体格ラグを少なくするために、アインが発注して高身長のアバターを作ってもらった。

木崎麗(きざき うらら)


アラサー独身。東雲綜合警備保障の広報課勤務。

かつては世界大会で名を馳せたアマチュア格闘家。

177㎝、78㎏超級で活躍していた剛健なイメージから、

現役時代は社のイメージキャラクターを勤めていた。

もっか婚活中だが、格闘家のイメージが強すぎて上手くいかないのが悩み。

柴田正樹(しばた まさき)


28歳。独身。

激務に疲弊して退職し、失業保険と貯金の切り崩しとで生活している。

今後の身の振り方に迷っている最中、とある不思議現象に遭遇してしまい

陰謀論者団体の片棒を担ぐことになる。

本人は慎重なつもりだが、簡単にコロリと説得されてしまう素直な性格。


パイ


アイン、オゼンと同じ星系人。義体などのアバター製造を得意とする。

タワーマンションの上階ワンフロアを買い上げて、外星系人のための義体レンタル業をしている。


遠州律子(えんしゅう りつこ)

パイが同期するアバター。筋骨隆々のガタイの良いオカマ。

外星系人向け会員制ラウンジ『夜間飛行(ヴォル・ドゥ・ニュイ)』のママ。

「宇宙人生活相談」的なこともしている。

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