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文字数 1,004文字
大して興味もないバラエティ番組を見ながら、独りで缶チューハイを煽っていたら友達から電話が来た。いつもズケズケ言ってくる増渕美結。同期入社で偶然最寄り駅が同じ。あっちは実家でパラサイトしてる。
「以前話していた人」というのは、飼い犬を散歩させていた時に偶然出会った人のことだ。地味な人だったらしいが、「家庭人としては申し分ない人!」とアプローチを掛けているうちに居なくなった、と聞いていた。人のこと「ガツガツしすぎ」とか言ってたくせに、ホント、とんだ肉食系女子だわ。
「ゴン太のトリミングに行ったらさ、偶然同じようなタイミングで予約とってたみたいで。これ、運命よ。だって、また会うなんて!」
「ご近所だったら同じ店使うこともあるでしょうよ。会ったのも偶然なら、会わなかったのも偶然よ。ナニ舞い上がってんのよ」
こっちはアキラくんに会えなくてくさくさしてるもんだから、ついつっけんどんに返してしまう。
「んもー連れないなぁ。彼、入院した知人に頼まれて飼い犬の面倒を見るためにしばらくこちらに居るんですって」
「あーそー。よかったですね。勝手に盛り上がってなさいよ」
「あらら、そんな態度でいいのぉ? その知人って言うのがタワマンの人らしいのよ。お金持ちの知人がいるなんて、きっといいとこにお勤めの人なのよ。いや、もしかすると実業家とかトレーダーとかなのかも」
「え?」
あのマンションの住人の? 犬……というと、最上階の女性の顔が浮かんだ。まさかね、犬を飼ってる人があの人だけとは限らないわよね。
「ほらー、ウララも気になるでしょ? 今度の休み、一緒にゴン太の散歩に付き合ってよ。彼に会えるかもよー」
「なんだって、他人が唾つけようと狙ってる人を私も見に行かなくちゃいけないのよ。理想のタイプが全然違うの、ミユも解ってんでしょ?」
あー、空になっちゃった。
私は、チューハイの缶を片手で縦につぶした。二本目を開けようかどうしようか迷っていると、電話の向こうでミユが情けない声を出して懇願してきた。
「実はぁ、ウララが来てくれないと困るのよー。私と彼が話そうとすると、彼が連れてる犬が邪魔して話にならないの。ウララが気をそらしてくれてると助かるんだけどなぁ」
ったく、人使いが荒いんだから……。ま、先日仕事のフォローしてもらったし、借りを返すつもりで付き合うか。