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文字数 982文字
なーんでそんな印象的なはずのこと、忘れてたんだ? トリミングサロンでブラウさんに「おい、アイツだ」って言われるまで、本当にきれいさっぱり忘れてた。興味なかったから、なんだろなぁ。
「アイン、明日は爺さんの散歩だ」
サロンからの帰り道、ブラウさんは心配顔で言った。爺さんというのは、ファングのとこで面倒を見ている最高齢者のバックさん。見た目はスタンダードシュナウザーという犬種っぽい。
「爺さん、足が弱いし耳が遠いから、アインが絡まれても追い払えない。明日も私が同行しよう」
「……ただ単に散歩行きたいだけじゃ……」
「他人の言うことを悪く取るやつは人生を楽しめないぞ」
「まぁ、そうですね。お願いします」
丸め込むのは得意だが、追い払うのは苦手だ。ここは甘えよう。
翌日の朝早く、少し離れた大きな公園へ散歩に出かけた。いつもより人が少ないのは、休日だからか? オレは、路の途中途中でプルプルして立ち止まるバックさんに辛抱強く付き合っていた。ブラウさんは、あちこち警戒しながら付いてきてくれる。
公園のほぼ中央に位置する噴水広場の前で、オレは思わず足を止めた。ハトだ。群れて集まっている様に、オレの内がシンと冷えていくのが解った。アイツらの仲間を、オレ……。
オレの足が止まったのを訝しんで、ブラウさんはオレを見上げた。
あ、いや、今更悔やんでも仕方がない。
思い直して、ベンチの足をスンスン嗅いでいるバックさんへと視線を戻した。
と、ブラウさんがいきなり低くうなり始めた。
「目黒さぁん! こんなところで会うなんて奇遇ですね!」
噴水の向かい、遥か遠くから手を振って叫んでいるのは……。
オレは聞こえない距離なのをいいことに小さく舌打ちした。
マスブチさんとかいう高等生物の雌だ。昨日トリミングサロンで散々話したじゃないか。なんでまた押しかけてくるんだ? あれ? 今日は一人じゃない。一緒にいるのは………。
「え?」
ウララさん?
オレは、目を見開いたまま固まった。