文字数 1,298文字

「おはようございます」

 ミユの紹介で挨拶したのは目黒義和さんという多分同年代の人だった。ラブラドールとシュナイザーの2頭を連れている。体格は平均。雰囲気は可もなく不可もなく。優しそうで穏やかな人だった。いささか強引なミユとくっ付いたら確実に尻に敷かれてしまいそう。

「木崎麗さんと同期だったんですか」
 こちらに向けた笑顔に好印象を持った。笑うと目じりが下がるんだ。連れているラブラドールと似てるかも。

「今日はシュナウザーちゃんも連れているんですねー」
 ミユは飼い犬のゴン太を抱いてしゃがみこんだ。ゴン太は気が強いポメラニアンだ。とりあえず喧嘩を吹っ掛けるタイプらしく、初顔に会う時は気を遣うって言ってたっけ。
「バックっていいます。大分おじいちゃん犬ですよ」
 バックはゴン太の匂いをスンスン嗅いでいたが、直ぐ興味を失って目黒さんの元に戻った。もう一頭のラブラドールは、私たちと目黒さんの間で落ち着きなくミユを見てイライラと尻尾を振ってじっとしている。ラブラドールってもっとフレンドリーな犬種だと思っていたけど、随分とミユ嫌われてるみたい。この子が邪魔をする子なんだろう。

「知人さんって、多頭飼いなんですよねー」
 ミユが目黒さんに話しかける。
「ええ、まぁ……。みんな保護犬なんですよ。中には人慣れしてない子もいるので、皆がみんな散歩には出せません」
 目黒さんは私に説明した。

「タワマンで保護犬を多頭飼いなんてすごいですよね。篤志家さんっていうのかなぁ」
 ペラペラ話すミユを目黒さんはニコニコと笑顔で受け流す。 
「普段、知人もこの子たちを連れて散歩しているはずなんですが、お会いしてませんか?」
「えっ?」
 ミユがギョッとして目を上げた。

 ほほう……。ミユってば、男性飼い主、それも射程範囲内の人にしか声を掛けていないんだな。ってことは、目黒さんの知人さんは女性か年配の男性ってことか……。選り好みはいかんよ。そりゃぁ、連れてるワンコも不審顔するわけだ。

「じゃぁ、バックがそろそろお疲れなんで、私はここで」
 目黒さんがすっと屈んでバックを抱きかかえた。その時、ふわりと香った匂いに覚えがあって、私はハッとした。
「目黒さん、コロン付けてらっしゃる?」
 え? と目黒さんは顔を上げた。目が合うと照れたように頭に手をやる。
「ちょっと……若作りな香りですかね? 外に出るときは体臭対策で軽く付けているんですよ。行きつけの店のママからの頂き物なので、勿体なくて」
「そのお店って、もしかして『夜間飛行(ヴォル・ド・ニュイ)』?」
「おや、律子ママご存知でしたか?」
 目黒さんはニコリと笑った。この人、ラウンジの会員なんだ。そっか、律子さんつながりで……。

 遠ざかる目黒さんの背中を見送りながら、私は溜息を付いた。
「ずるーい。ウララの方が目黒さんとしゃべってる」
 隣でミユが口を尖らせている。私は呆れ顔で言い返した。
「ミユってばさー、私にガツガツしてるって言っときながら、アンタの方がよっぽどだよ。目黒さん、引いてるじゃん。絶対アレ、迷惑がられてるよ」
「えー?」
 私は目黒さんの行った方向に視線を戻した。
 目黒さん、アキラくんと同じ匂いがした。
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登場人物紹介

アイン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。

軌道上に停泊している宇宙船から、地球の様子を撮影して動画配信している。

地上活動をする時は、義体と呼ばれる地球人を模したアバターと同期する。

オゼンと行動を共にする前は、争いごとの仲裁をするネゴシエイターを生業としていた。

人当たりがよく陽気な性格。自分を受け入れてくれたオゼンが大好き。


相馬瞳(そうまあきら)

アインが同期するアバター。

身長167㎝。男性。

「草食系男子」の設定。

オゼン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。アインよりも年長で、体高が2mほどある。

アインからの提案で、フリゲート艦であった宇宙船を基地局に改造して動画配信している。

義体との体格ラグが苦手で、地上活動をするのは得意ではない。

かつては武器製造業を生業としていたが、職種変えした過去を持つ。

アインの声に惚れて自艦に引き入れたものの、思いの外若かったので微妙に距離を取りたい……。


空知聖(そらちさとる)

オゼンが同期するアバター。

身長195㎝。男性。筋肉質。

義体との体格ラグを少なくするために、アインが発注して高身長のアバターを作ってもらった。

木崎麗(きざき うらら)


アラサー独身。東雲綜合警備保障の広報課勤務。

かつては世界大会で名を馳せたアマチュア格闘家。

177㎝、78㎏超級で活躍していた剛健なイメージから、

現役時代は社のイメージキャラクターを勤めていた。

もっか婚活中だが、格闘家のイメージが強すぎて上手くいかないのが悩み。

柴田正樹(しばた まさき)


28歳。独身。

激務に疲弊して退職し、失業保険と貯金の切り崩しとで生活している。

今後の身の振り方に迷っている最中、とある不思議現象に遭遇してしまい

陰謀論者団体の片棒を担ぐことになる。

本人は慎重なつもりだが、簡単にコロリと説得されてしまう素直な性格。


パイ


アイン、オゼンと同じ星系人。義体などのアバター製造を得意とする。

タワーマンションの上階ワンフロアを買い上げて、外星系人のための義体レンタル業をしている。


遠州律子(えんしゅう りつこ)

パイが同期するアバター。筋骨隆々のガタイの良いオカマ。

外星系人向け会員制ラウンジ『夜間飛行(ヴォル・ドゥ・ニュイ)』のママ。

「宇宙人生活相談」的なこともしている。

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