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文字数 1,591文字
「ウララさん! 駐車場の出口で待機してハイヤーを捕まえてください。もしかすると、オレがハトとの繋がりから目をつけられた可能性があります」
「あっ、はい!」
アキラくんの傍にチワワの入ったクレートを置くと、私は駐車場の出口に近付いた。
ハトを呼ぶ? どういうこと? アキラくんは知り合いから頼まれてハトのことを調べてたはずじゃ……。頭の中を疑問符がグルグル回っている。
植栽の陰から辛抱強く待っていると、ハイヤーが近付いてきた。慌てて路へ飛び出して手を振る。そのままハイヤーを誘導して地下駐車場へ戻ってきた。
地下駐車場の薄暗がりの中で、モニタの明かりに照らされたアキラくんがぼんやりと見える。彼の周りにはいつの間に近付いてきたのか5匹のネコがまとわりついていた。アキラくんは、忙しなくキータイプしながら時々虚空に視線を走らせ何事かブツブツと呟いている。頭をすり寄せてきたネコには頬をすり寄せ返す。頭に乗っかってきたネコはそのまんまだ。
一瞬、視線がこちらに向いたかと思ったら、アキラくんから次の指示が飛んでくる。
「ウララさん、先にワンちゃんと一緒に乗ってください」
「ああ、は、はい」
私はアキラくんの傍に置いていたクレートを抱えてハイヤーに乗り込んだ。横目で見ると、アキラくんは立ち上がってネコたちの頭をそれぞれ撫でながらお礼を言っていた。
「あっちの潜伏先が解りましたが、この状態ならきっとあっちも動きますね」
私の隣に乗り込みながら、アキラくんは思案顔で言う。
「潜伏先? どうして……」
「ネコが教えてくれました」
「はい?」
「出してOKです」
ハイヤーが動き出す。地下駐車場内を鋭く切り返して入ってきたのとは別の出口から地上に出て行った。リアウィンドウからマンションへ振り返ると、一階の正面出入口を中心におびただしい数のカラスが群がっていてゾッとした。
「一体……相手はナニモノなの?」
たかがカラスから身を守る程度と侮っていた。あんな量のカラス、どうあっても正面突破は無理だ。
「さあねー。人間じゃないんじゃないですか?」
アキラくんは悪戯っぽく笑って耳元の髪をかきあげた。
「どうします? カラス、気が付いたみたいですよ」
ハイヤーの運転士がこちらへ声を掛けた。会社の車だと目立つのでハイヤーを運転しているが、こちらはれっきとしたうちの社員だ。
アキラくんは、口を尖らせてPDAを閉じた。
「ったく……。これでバレたんだな」
2,3度瞬くと、アキラくん、今度は虚空に視線を走らせてブツブツと呟き始めた。何を言っているのかサッパリ解らない。短く溜息を付いてから、運転士に話しかけた。
「いいです。このまま飛行場まで行ってください。いかなカラスとて走行中の車に突撃かましてくるほど無茶はしないはずです。次来るとしたら、……ジェットに乗り込むタイミングだと思います」
「同意ですね」
運転している社員はそう言うとアクセルをグンと踏み込んだ。
「ウララさん」
「はいッ!」
アキラくんの真剣な目がこちらを向いた。
「飛行場に連絡して、電源を全部落としておくようにお願いできますか?」
「えっ……でも、そしたら……」
ジェットが直ぐに飛び立てなくなるどころか、セキュリティも全く使えなくなってしまう。躊躇っていると、アキラくんがスッと目を細めた。
「電源復旧は後からでも出来ますが、電源を落としておいてもらえないと、二度と飛び立てなくなります。空港では無くて、民間飛行場を借りてもらう手筈にしたのもそのためなんですから、四の五の言わずに連絡してください。さもないと会社の備品数百億円が一瞬でパーですよ」
「パー……」
何が起こるの? 何をする気なの?
よくわからないけど私は慌ててスマホを取り出して飛行場へと電話を掛けた。