3-side2

文字数 1,357文字

 打合せがトントン拍子に進んで、今日は珍しく定時で上がることができた。こういう日ばかりならいいのに。繁華街に買い物へ行く余裕もあったけど、久しぶりに家でのんびりするのもいいなぁ。ここんとこ手抜きの中食が続いたから、凝った料理を作ってもいいな。作り置きもしておくかな。

 帰り路、スーパーに寄って食材を買い集めると、勢いが過ぎたのか結構な量になってしまった。重さはどうでも、かさばるのは大変。ついでにトレペを買ってしまったのが敗因。だって、安かったんだもん。

 途中の児童公園の隅で、ベンチの上に買い物荷物を置いて一休みしていると、目の端を白い人が通っていった。あ、あれは……。

「アキラくん?」

 思わず声を掛けていた。
 足を止めた彼は、くるりと振り向いて満面の笑みを向けた。

「あ、ウララさんだ。お仕事帰りですか?」

 足取りも軽くこちらにやってくる。思わず呼び止めたものの、まさか寄ってくるとは思わなかった。この先どうすればいいのか分からない。

「アキラくん、この近所に住んでたの?」

 あらやだ。私ったら、いきなりプライベートなことを聞いてしまった。

「はい。オレんち、ここ」

 と、アキラくんは屈託なく目の前のタワーマンションを指さす。うわ……、なんか普通の人と印象が違うと思ったら、住んでる次元が違う人だったんだ……。口をぽかんと開けて、タワーマンションを見上げた。確かここ、コンシェルジュとかクラークとかが居たりする超高級マンション。うちの会社がセキュリティを担当していたはずだ。

 と、その時、児童公園の出入り口にタクシーが止まった。後部座席の扉が開いて、体格の良い人が下りてくる。お高そうな留袖に金襴の帯を締めた化粧の濃い人だ。

「ンもう。なかなか帰ってこないから行き違いになるとこだったじゃないのっ」

 眉間に皺を寄せてこちらに向かって怒鳴っている。

「あー、ごめんなさい。えと……」

 目の前にいたアキラくんが頭を掻きながら応じたのを見てギョッとする。え? このヒトと知り合いなの? ていうか「帰ってこない」って、この派手な人と一緒に住んでるの?

「外では『律子さん』とお呼びなさい!」
「はい。律子さん」

 アキラくんは律子さんのところに駆けつけると、何かを手渡しされていた。遠目から見て、マンションの鍵かな、と見当をつけた。

「間に合わなかったら締め出すところだったわよ」
「いいよ。そしたら、お店の方に行くから」

 軽く返すアキラくんに、律子さんは片眉をあげた。

「その成りで行ったら、店の子のおもちゃにされるわよ。覚悟しときなさい」
「こっわ!」

 アキラくんはおどけて肩をすくめた。
 タクシーが走り去るのを見送ってから、アキラくんはこちらへ顔を向けた。バツの悪いところを見られた、というようにペロリと舌を出す。

「ウララさん、お荷物多くて大変そうだから、オレ、手伝いますよ」
「ええ! ちょ、ちょっと、そんなの悪いわよ」

 いくら男だからって明らかに私より小柄で細い子に荷物持たせるなんて……。慌てて立ち上がって荷物をかき集めていると、アキラくんは横から、よりによってトレペを掴んで抱えた。

「これなら軽いから、オレに持たせても罪悪感ないでしょ?」

 ちょっと意地の悪い顔でアキラくんが見上げてくる。はぁん! なんなのよ、この小悪魔男子はっ!
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登場人物紹介

アイン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。

軌道上に停泊している宇宙船から、地球の様子を撮影して動画配信している。

地上活動をする時は、義体と呼ばれる地球人を模したアバターと同期する。

オゼンと行動を共にする前は、争いごとの仲裁をするネゴシエイターを生業としていた。

人当たりがよく陽気な性格。自分を受け入れてくれたオゼンが大好き。


相馬瞳(そうまあきら)

アインが同期するアバター。

身長167㎝。男性。

「草食系男子」の設定。

オゼン


地球外生命体。実体は節足動物に近い形状の雌雄同体。6本指。

年齢と共に徐々に大型化する性質を持つ。アインよりも年長で、体高が2mほどある。

アインからの提案で、フリゲート艦であった宇宙船を基地局に改造して動画配信している。

義体との体格ラグが苦手で、地上活動をするのは得意ではない。

かつては武器製造業を生業としていたが、職種変えした過去を持つ。

アインの声に惚れて自艦に引き入れたものの、思いの外若かったので微妙に距離を取りたい……。


空知聖(そらちさとる)

オゼンが同期するアバター。

身長195㎝。男性。筋肉質。

義体との体格ラグを少なくするために、アインが発注して高身長のアバターを作ってもらった。

木崎麗(きざき うらら)


アラサー独身。東雲綜合警備保障の広報課勤務。

かつては世界大会で名を馳せたアマチュア格闘家。

177㎝、78㎏超級で活躍していた剛健なイメージから、

現役時代は社のイメージキャラクターを勤めていた。

もっか婚活中だが、格闘家のイメージが強すぎて上手くいかないのが悩み。

柴田正樹(しばた まさき)


28歳。独身。

激務に疲弊して退職し、失業保険と貯金の切り崩しとで生活している。

今後の身の振り方に迷っている最中、とある不思議現象に遭遇してしまい

陰謀論者団体の片棒を担ぐことになる。

本人は慎重なつもりだが、簡単にコロリと説得されてしまう素直な性格。


パイ


アイン、オゼンと同じ星系人。義体などのアバター製造を得意とする。

タワーマンションの上階ワンフロアを買い上げて、外星系人のための義体レンタル業をしている。


遠州律子(えんしゅう りつこ)

パイが同期するアバター。筋骨隆々のガタイの良いオカマ。

外星系人向け会員制ラウンジ『夜間飛行(ヴォル・ドゥ・ニュイ)』のママ。

「宇宙人生活相談」的なこともしている。

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